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■4月29日


「夜が明けちゃいましたね」

「ああ」

夜明けのコーヒーというと何だか淫靡な空気を連想するものだが、今降谷さんに渡したのは、純粋に眠気覚ましのためのものだ。

先ほどまで公衆電話で風見さんと話していたのだが、のぼってくる朝日に気付いた降谷さんは、電話を切って私から受け取ったコーヒーを飲みながら、明けていく空を静かに眺めている。

白状しよう。

こんな時だというのに、朝日に照らされる降谷さんの美貌に私は見とれてしまっていた。
この高潔な人があまりに美しすぎるのがいけない。
朝日を受けて明るいミルクティー色の髪が輝き、目鼻立ちがはっきりとした端正な顔立ちをくっきりと浮かび上がらせている。
空を映したような色をした大きな瞳に、すっきりと通った鼻梁、引き締まった口元。
朝日も恥じらうほど美しく整った甘いマスク。
女なら誰だって見惚れずにはいられないはずだ。

「こんな時間まで付き合わせて悪かった」

「いえ、大丈夫です。あまりお役に立てなくてすみません」

「そんなことはないさ。充分役に立っているよ」

朝日をバックに微笑む降谷さんが神々しすぎて、思わず目を逸らす。

昨夜からずっと情報収集のために駆けずり回っていた降谷さんも、今だけは一息つけているのだと思いたい。

「これから、毛利探偵事務所のパソコンからアクセスログが発見されることになる。それで送検の方針に固まるだろう」

「コナンくんと蘭ちゃんは妃さんの所で保護してもらえるんですよね」

「そうなるように仕向けたから二人のことは心配いらない」

そうなるとわかっていても、実際に降谷さんから聞かされると安心することが出来た。

毛利探偵は、午後から日下部検事の取り調べを受けることになる。
そして──

「大丈夫か?」

急に血の気が引くのを感じて目の前が暗くなり、その場に座り込んだ私に、降谷さんが駆け寄って来る。
そのまま肩を抱かれてRX-7へと促された。
助手席に座って息をつく。

「だ、大丈夫です。ただの立ちくらみなので」

「すまない」

「降谷さんのせいじゃありません。どうしてもついて行きたいって我が侭を言った自分の責任です」

「俺は君を振り回しているな」

「いえ、私が悪いんです」

憂いを帯びた眼差しを伏せた降谷さんに、慌てて答える。
そう、犯人も動機もわかっているのに、降谷さんに話せずにいる私が全て悪いのだ。

もしも真相を話してしまったら、この人は一人で事件を解決してしまうだろう。
それだけの能力と権力を持っている人だ。
でも、それではいけない。
コナンくんに協力者になってもらわなければ、きっと何か大事な部分が狂ってしまうから。

「立ちくらみは単純に寝不足と体力不足だからです。日頃ちゃんと運動してないせいですから気にしないで下さい」

「…なまえさん」

「出来る限り協力しますから、絶対に一人で無理はしないで下さいね」

きっとそのために私はこの世界に送られてきたのだと信じている。

この国を守るために孤独な戦いを続ける降谷さんの力になれるように、と。


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