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■5月1日


「じゃあ、行って来るよ」

そう言って降谷さんが出掛けてから何時間経っただろう。
もうコナンくんと合流して行動を共にしているのは間違いない。
彼らは今まさに、映画で言うところのクライマックスシーンを迎えているはずだった。

そこで、はたと気付く。

そうだ。降谷さんはガラスで腕を切って怪我をしてしまうのだ。

「ど、どうしよう…!」

思わず声に出してうろたえてしまった。
病院に寄って治療してもらってくれればいいが、初日の爆発の時は真っ直ぐ私の所に来て手当てをしたから、もしかすると病院に行かない可能性もある。

「て…手当ての用意!」

とりあえず、救急箱を見つけ出して、包帯や消毒薬などを準備しておくことにした。

しかし、RX-7は廃車寸前になっているはずだし、どうやって帰って来るのだろう?

無駄に慌てても仕方ない、とテレビをつける。

ちょうどニュースをやっていて、無人探査機『はくちょう』が無事地上に戻ってきたと報道されていた。
カプセルの一つがカジノタワーをかすめて落ちていったことについては報道されていない。

映画と同じく、降谷さんとコナンくんの活躍で、避難していた人達に被害は出なかったようだ。
降谷さんに庇われたコナンくんも無事なはずだ。

「はぁ……」

突然ここ数日間の疲れがどっと出て、ソファに沈み込む。

「心配をかけてすまない」

声が聞こえたのはその直後だった。
慌てて姿勢を正して振り返り、立ち上がる。

「お帰りなさい、降谷さん」

「ただいま」

優しい声音に微かに疲労の色が滲んでいる。
降谷さんはやはり左腕を怪我していた。
自分で応急処置をしたのか、傷口の上の部分にハンカチらしき布がきつく巻かれて止血されている。

「疲れているところ悪いけど、手当てを手伝ってもらえるかな」

「もちろんです。任せて下さい」

テーブルの上に置かれた包帯や消毒薬をちらりと見て、降谷さんが苦笑する。

「本当に君には何でもお見通しなんだな」

「そうですよ。降谷さんがどんな無茶をしたか、よーく知っていますからね」

「はは、それは怖いな」

ソファに座った降谷さんが、止血していたハンカチを取り、ジャケットを脱いだ。
その動きだけも傷が痛んだのか、僅かに眉を寄せて息をつく。

傷口はざっくりいっていたものの、縫合が必要というわけではなさそうだったので少しだけ安心した。

「しみますよ」

「構わない。やってくれ」

消毒薬を豪快にふりかけて傷口を洗い流す。
血が止まっていて良かった。
傷口の何ヵ所かに小さなテープを貼って傷口が開かないようにした上でガーゼを当て、その上から包帯を巻いていく。

「きつくないですか?」

「ああ、大丈夫だ」

髪をかき上げた降谷さんが、包帯の巻かれた患部に手で触れる。

それから彼は、消毒薬を片付けていた私の手を取った。

「降谷さん?」

「ありがとう。君には助けられてばかりだ」

「少しでもお役に立てたなら嬉しいです」

「少しなんてとんでもない。君がいなければ、俺は」

言いかけて言葉をきった降谷さんは、少し戸惑う素振りを見せたかと思うと、再び口を開いた。

「今日、コナンくんにある質問をされた時、君の顔が浮かんだ」

「えっ、それって…」

「何でもお見通しなんだろう?」

降谷さんは悪戯っぽく笑って、ソファの背もたれに深く背中を預けて座り直した。
心底疲れたといった感じだ。

「お腹がすいたな。何か食べられるものはあるかい?」

「今すぐ用意します!」

急いでキッチンに向かいながら、私の心臓はドキドキとうるさいくらいに高鳴っていた。

降谷さんの意地悪。
そんな意味深なこと言われたら期待しちゃいますよ…!


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