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「じゃあ、行って来るよ」

「行ってらっしゃい。気をつけて」

「ああ」

零さんが私の額にキスを落とす。
ちょっと照れくさそうな笑みを覗かせて、それから零さんは出掛けて行った。

零さんのセーフハウスの一つに居候させてもらうようになって数ヶ月。
その間に、私達の関係も緩やかに変化していった。

呼び方も、降谷さんから零さんに。

それが今の私達の関係を表していた。

まだただの協力者だった頃から、零さんは私のことをとても大切にしてくれている。
限りなく恋人に近い関係になった今では、甘すぎるのではないかというくらいに。

まだ身体の関係はないけれど、何らかのきっかけがあれば、いずれはそうなるのではないかと思っている。
何度かそういう雰囲気になりかけたこともあるが、そのたびに邪魔が入ったせいもある。
ただ、私の中では、いつかは零さんのものになるんだろうなという確信があった。

焦る必要はない。
お互いの気持ちを大事にしていれば、その時はきっと来ると思うから。

「はぁ……幸せ」

行ってらっしゃいと零さんを送り出し、お帰りなさいと迎えてあげることが出来る幸せを噛みしめていると、インターホンが鳴った。

「なまえさん、風見です」

いったい誰が、と怪しむ私の耳に聞き慣れた声が飛び込んでくる。

「はい、今開けます」

警戒する必要のない人物であることに安心した私は、ドアを開いた。
そこには。

「見つけましたよ、なまえさん」

「ひっ…赤屍さん!?」

声が似てるから気付かなかった…!
「誰か訪ねて来てもドアを開けるな」という降谷さんの忠告を破った罰だろうか。
だって風見さんだと思ったし、まさかこの世界に赤屍さんが現れるなんて思わなかったから!

「ど、どうやってここに…?」

「貴女がいる場所ならどこにでも現れますよ。どんな手段を使っても…ね」

そうだった、この人は次元を斬って移動出来るんだった。
つくづく人外魔境な人だ。

「さあ、帰りましょう」

歩み寄って来る赤屍さんから逃げるように後退り、部屋の中へ。

「逃げても無駄ですよ」

「なまえ!」

「零さん!?」

開いたままのドアから飛び込んで来たのは、出掛けたはずの零さんだった。
銃を構えて赤屍さんに狙いをつけている。

「零さん、どうして…」

「何かあった場合に備えて部屋に盗聴器を仕掛けておいた。役に立ったな」

赤屍さんから目を離さないまま不敵に笑う零さんは、耳に装着していたワイヤレスイヤホンを片手で外してみせた。

「動くな。なまえ、ゆっくりこっちにおいで」

「おや…王子様のお出ましですか。少しは楽しめそうですね」

赤屍さんが手から赤い剣を出現させたのを見て、私は慌てて零さんを背に庇った。

「やめて!この人に手を出さないで!」

「では、大人しく私と来なさい。そうしなければどうなるかはわかっているでしょう?」

「…っ」

「駄目だ、なまえ。必ず俺が守るから、どこにも行かないでくれ」

「零さん…」

「大切な彼がどうなっても良いのですか?賢い貴女ならどうするべきかわかるはずだ」

「黙れ。なまえ、行くな。俺は絶対にこんな奴には負けない。信じてくれ」

ど…どうしよう!?


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