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目の前に零さんの綺麗に整った顔がある。

目を閉じたその寝顔は、凛々しさの代わりにあどけなさが加わったお陰で、いつもよりほんの少しだけ幼く見える。

出来ることならば、このまま何ものにも邪魔されずに彼が安心して眠り続けられるよう、何でもしてあげたいと──そう思えてくる、無防備な寝顔だった。

(よく眠ってる…)

起こしてしまわないように、細心の注意をはらいながら、眠る彼を見守る。

そうでなくとも、身体にしっかりと巻き付いた零さんの腕のせいで身動き出来ないのだけれど。

潜入捜査をしていた頃はいったいいつ寝ているんだろうと心配になったものだが、組織壊滅後は目に見えてちゃんと睡眠時間がとれるようになっていた。

相変わらず多忙なことに変わりはないものの、食事や睡眠がしっかりとれるようになったのは良いことだ。

(平和だなあ…)

チチチ、と鳴く小鳥の可憐な声が聞こえてきそうな平穏な朝だった。

残念ながらこのセーフハウスの窓ガラスは防弾強化ガラスの上に二重になっているので、外の音は殆ど聞こえてこないのだが。
だからこそ零さんも安心して眠れるのだろう。

眠る零さんの目の上にかかった前髪を、起こさないように指でそおっとかきあげて耳にかけてあげた。

それにしても綺麗な寝顔だ。
零さんの美貌を見慣れてきたはずの私でさえ見とれてしまうほどに。

「そんなに見つめられると穴が開くよ」

「あ、起こしちゃいましたか?ごめんなさい」

「いや、もう大分前から起きていた」

「あ、寝たフリしてたんですね。ひどい」

フッと笑った零さんに引き寄せられる。

「おはよう、なまえ」

「おはようございます、零さん」

けれど、唇が重なりそうになったところで、私は零さんの口を手で塞いだ。

「私まだ歯みがきしてないのでダメです」

「そんなこと気にしないのに」

零さんは不満そうな顔をするけれど、こればかりは譲れない。
朝起きたばかりの雑菌がいっぱいの口で零さんにキスするなんてとんでもないことだ。

「仕方ないな」

私の頬にキスを落とすと、零さんは腕をほどいて起き上がった。
ぬくもりが離れていくのが名残惜しく感じる。

「じゃあ、朝食を作ってくるから支度しておいで」

「ありがとうございます」

ベッドから出た私は洗面所へ行き、念入りに歯を磨いた。
顔を洗い、さっぱりしたところで部屋着に着替えてダイニングに行くと、キッチンに立つ零さんが見えた。

ポアロのカウンターの中で軽食を作っている時もそうなのだが、料理をしている時の零さんは楽しそうで、見ていて幸せな気持ちになる。
何より、かっこいい。

「もう出来るから座っていてくれ」

「私も手伝います」

「じゃあ、皿を出してくれるかな。スープ用と、いつもの白いやつを頼む」

「はい、わかりました」

零さんに指示された通りにお皿を用意して彼に渡す。

「ありがとう」

受け取った零さんは、手際よくお皿に料理を盛り付けていった。
最後に焼けたばかりのトーストを乗せて出来上がりだ。

スクランブルエッグとベーコン、アボガドディップとブールのトースト。
そこに新鮮なクレソンが添えてある。
ポアロの日替わりモーニングと同じメニューだ。
それに春キャベツのスープがプラスされている。

「さあ、食べよう」

「はい。いただきます」

「いただきます」

二人してテーブルにつき、運んだ料理に早速手をつける。
まずはスープからいったが、体温が下がっている朝の身体に温かさが染み渡るようだった。

「本当に美味しそうに食べるな、君は」

「はい、今日もとっても美味しいです」

「そう言ってもらえると作った甲斐があるよ」

ゆったりとした時間と会話を楽しみながら食事を進める。
零さんが作る朝食は、味は言うまでもなく、量もちょうどいい。

全部食べ終わりごちそうさまをしたところで、零さんが紅茶を淹れてくれた。

「もういいかな?」

「ん?」

何か問い返す間もなくキスをされる。
しかも、深くて熱烈なやつを。

「ん……ぅ、!」

「逃げるな」

決して嫌なわけではないけれど、驚いて思わず逃げようとしてしまった私の抵抗を封じて、零さんは心行くまで情熱的なキスを堪能してから、ゆっくりと口を離した。

「も…びっくりした…」

「なまえがお預けを食らわしたりするのが悪い。食べ終わるまでちゃんと我慢しただろ」

舌ぺろをする零さんがあまりにもエロスで、文句の言葉も引っ込んでしまった。

「やっぱり足りないから、もう一度」

「ん、ん…!」

その後、火がついたらしい零さんによってベッドに逆戻りすることになったのだが、自業自得だと言わないでほしい。


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