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赤で統一されたシックな空間に、ブラームスの交響曲第4番が流れている。

ここは西洋の古城を移築したというリゾートクラブの本館の中にあるバーだ。
パンフレットに載っていた写真に一目惚れして足を運んだのだが、想像以上にムーディーで素敵な空間だった。

カウンター席には男が一人。

「君も独りか」

黒いニット帽を被ったその男は、どことなくただ者ではない雰囲気を漂わせていたが、なまえが隣に座ると、気さくに話しかけてきた。
一見すると、取っ付きにくく無愛想な男に見えるが、根は明るい性格なのかもしれない。

男は赤井秀一と名乗った。

「俺は休暇でな」

ひとしきりバーの雰囲気や彼が好きでよく飲むというバーボンについて語りあった後で、赤井が言った。
あまり自分のことについては話したがらないので追求はしなかったが、心を許してくれたのか、内情を明かしてくれた。

「実はFBIのエージェントなんだと言ったら信じるか?」

「信じます。赤井さんはそういうことで嘘をつく人には見えないから」

「そうか」

バーボンのグラスを傾けながら赤井は小さく笑った。
黙っていると冷たく見えるが、笑うと一気に魅力が増す。

なまえが飲んでいたのはイエロー・パロットだったのだが、そのカクテル言葉のように「騙されないわ」という警戒心は働かなかった。

「大きな仕事を片付けたばかりでね、今まで多忙だった分だと言って、上司にまとまった休暇を押し付けられた」

「大変なお仕事だったんですね」

「ああ、やり遂げはしたが、失くしたものも大きかった」

そう語る赤井の目は遠い過去に思いを馳せているようだったので、なまえは黙って彼の次の言葉を待った。

「だが、得たものもまた大きかった。かけがえのない友人を得ることが出来たのは、何より嬉しい誤算だったよ」

「信頼出来る友人は宝物ですからね」

「ああ、本当にそう思う」

赤井が良き友を得ることが出来て良かった。
なまえは心からそう思った。
この、どこか孤独な感じのする人が、誰かを信頼出来るようになったのはこの人のためにも良かったのだと思う。
その友人が少し羨ましい。
きっと、親しい間柄でなければ見られない彼の素顔を見られるのだから。

「良かったら、これから俺の部屋で飲み直さないか?」

「赤井さんのお部屋で?」

「ああ。この上に部屋を取ってある」

「えっと…」

「大丈夫だ。手は出さないから安心してくれ」

なまえの困惑を警戒と捉えたらしい。
是非手を出してほしかったのだが、残念だ。

「是非、ご一緒させて下さい」

「ありがとう。じゃあ、行こうか」

あっという間になまえの分まで会計を済ませてしまった赤井は、ドアを開けてなまえを外へ出してくれた。

「すみません、おごってもらっちゃって」

「いいさ。その代わり、これからたっぷり俺の話を聞いてもらおう」

「喜んで」

赤井が差し出した腕に手を滑らせて、なまえは彼の部屋に向かった。

長い夜になりそうな予感を胸に抱いて。


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