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最近、毎日のように夢に安室さんが出てくる。

現実ではあり得ない彼氏彼女の距離感で接して来られるから、実際にはポアロの一常連客でしかない身としては困惑するしかない。
今朝も、我が家から帰っていく安室さんを見えなくなるまで見送って、切ないような幸せなような気持ちのまま目が覚めた。
起きて暫くはまだ胸がホワホワしていた。

もちろん、現実に安室さんが私の家にいたわけではない。
全ては夢の中の出来事だ。

なんでそんな夢を、と言われそうだが、自分でもよくわからない。
ポアロに脚しげく通っているのはあそこの珈琲が好きなのであって、安室さん目当てで通っている安室さんガチ恋勢の女子高生達とは違う。
でも、園子ちゃんあたりに知られたら間違いなくそれは恋だと言われてしまいそうだ。

事実、いままではただ眼福だなあとしか感じなかったのに、いまは変に意識してしまい、安室さんの顔をまともに見れなくなってしまっていた。
それどころか、安室さんがシフトに入っている日時をわざと避けてポアロに行くようにしているくらいだ。

「やはり避けていたんですね」

ポアロに入っていこうとする安室さんの姿が見えたから、慌てて回れ右をして逃げ出そうとしたら、何故かすぐ後ろにいた安室さんに腕を掴まれて捕まえられてしまった。

「あ、あのっ」

「ダメだ。逃がさない」

「ひえっ」

「納得のいくよう説明してくれるまで離しませんよ」

離してもらいたい一心で、私は洗いざらい話した。

「──僕の夢を見る?」

安室さんの顔が見れないまま頷く。

「そんなことのために、僕は避けられていたんですか」

呆れられてしまった。

「貴女に何かしてしまったかと色々思い悩んでいたのに、僕の夢を見るからだなんて、そんな理由で僕は避けられていたんですか」

違った。めちゃくちゃ怒っている。
笑顔だけどめちゃくちゃ怒っている。

はあ……と深く溜め息をついた安室さんに腕を掴まれたまま、ずるずると引き摺られていく。

「ど、どちらへ?」

「ポアロです」

なんだ、ポアロなら安心、とはならなかった。
一触即発のいまの状況が怖い。

「おはようございます」

ポアロに入ると、安室さんは私をカウンター席に座らせて一旦奥に引っ込み、エプロンを着けてすぐに出てきた。

水道で丁寧に手早く手を洗い、何かを作り始める。
クリームを泡立てているところを見ると、ケーキだろうか。

「正解です」

声に出して言ってないのに!
安室さんが怖すぎて私は震えた。

「そんなに怖がらないで下さい」

安室さんが苦笑する。
その微笑みの美しいことと言ったら。
眉目秀麗とは彼のためにある言葉に違いない。

「出来ました」

私の前にお皿が置かれた。

「僕の気持ちです」

どうぞ召し上がれ、と言われたそれは、たっぷりと生クリームが添えられた紅茶のシフォンケーキだった。

「もしかして……バレンタインのお返しですか?」

「ええ。誰かさんはすっかり忘れていたらしくて、散々逃げ回ってくれたお陰でなかなか渡せませんでしたが」

「ご、ごめんなさい」

「食べて下さい。そうしたら許してあげます」

「イタダキマス」

思わず片言になりながらフォークを握る。

ケーキにフォークを入れると、ふわっと切れた。
それを生クリームに絡めてから口に運ぶ。

「美味しい!」

「それを聞いて安心しました」

安室さんが優しく微笑む。

「紅茶のシフォンケーキの意味、ご存知ですか?」

「えっ」

「貴女を愛しています」

背後で飲み物を噴き出した音がして、振り返るとコナンくんがいた。

「ぼ、僕、何も聞いてないよ!」

コナンくんは溢したオレンジジュースをあわあわと拭きながら言った。

「安室さんがなまえさんに愛の告白してたなんて、全然まったく聞いてないからね!」

嘘つき!!!


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