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安室さんからメールが来た。
なんでも安室さんが考案したケーキが新作としてメニューに加わったらしい。

『あなたには是非食べて頂きたいので、ご来店を心よりお待ちしています』

こんなことを言われたら食べに行かないわけにはいかない。
安室さんが待っていてくれると思うと、ポアロへ向かう足取りも軽やかになった。
自分でもちょっと現金過ぎる気がするが、仕方がない。

「いらっしゃいませ!」

ポアロの入口のドアを開けると、すぐに梓さんの明るい声に出迎えられた。

ちょうど良い時間に来られたようで、店内には数人の常連客の姿しかない。
安室さんファンのJKの若々しい華やさが苦手なので、姿が見えないことに内心ほっとした。
これは焼きもちではないはずだ。たぶん。

カウンターの内側にいた安室さんと目が合って、にっこりと微笑まれる。

お好きなお席にどうぞと梓さんに促されたので、お気に入りの窓際のテーブル席についた。

「少しお久しぶりですよね。お忙しかったんですか?」

「ええ、ちょっとだけ」

「安室さんが心配していましたよ」

「えっ」

「もう、愛されちゃってるんですからっ」

にこにこしながら水のグラスをテーブルに置くと、梓さんは向こうに歩いて行ってしまった。
否定する暇もない。

入れ替わりに、用事が済んだらしい安室さんがオーダーをとりにやって来た。

「来て下さったんですね、なまえさん。ありがとうございます」

「あ、いえ」

「やっぱりお疲れのようですね。クマ、出来てますよ」

化粧で隠したはずのクマを見抜かれて、慌てて目元に手をやった。

「くれぐれも無理はなさらないで下さい。大事な身体なんですから」

「安室さんの忙しさに比べたら大したことないですよ」

「大丈夫です。僕はこう見えて鍛えてありますからね」

そう言われてしまうと、二の句がつげない。

「ご注文はケーキセットでよろしいですか?」

「はい、ミルクティーでお願いします」

「かしこまりました」

少々お待ち下さいと微笑まれて、赤くならないように必死に堪えているうちに安室さんはカウンターの中に入って行った。

どんなケーキが出て来るんだろうとドキドキして待つ。
安室さんはすぐに紅茶とミルクポットとケーキの皿をトレイに乗せて戻って来た。

「お待たせしました。新作のパンプキンケーキとミルクティーです。砂糖は二つでよろしいですか?」

「あ、はい」

安室さんがお砂糖とミルクを入れてかき混ぜてくれたティーカップをパンプキンケーキと一緒にテーブルに並べる。

パンプキンケーキにはジャック・オ・ランタンの飾りが乗っていて、お皿にはチョコレートで蜘蛛の巣模様が描かれていた。

「ハロウィン仕様なんですね」

「ええ、10月31日までのサービスです」

「期間中に来られて良かったです。安室さんがメールして下さったお陰ですね」

「喜んで頂けて良かった。僕の我がままで無理を言ってしまったのではないかと心配していたんです」

「そんな、安室さんからのメール、凄く嬉しかったです」

「ありがとうございます。なまえさんから返信を頂いた時は、嬉しくて舞い上がってしまいました。メールはもちろんすぐ保護しましたよ」

「もう、安室さんてば大げさなんですから」

「あれ?信じてくれないんですか?酷いなあ」

「安室さんみたいなモテる人に言われても、お世辞にしか聞こえないですよ」

「じゃあ、お世辞なんかじゃない証拠に今日はこのあと僕に付き合って下さい。あと一時間で上がれるので、デートしましょう」

「デ、デート!?」

「そう、デートです。ハロウィンの飾り付けがされた街を僕と一緒に歩いて下さい」

「えっ、えっ、あのっ」

「もちろん、ディナーはご馳走しますよ。自宅まで送るついでにマッサージもしましょうか」

あわあわしていると、安室さんは了承と取ったらしく、「約束しましたからね」と言ってまたカウンターに戻って行ってしまった。

とりあえず、いまはケーキを食べてしまおう。
食べるのが勿体無いような可愛いケーキだけど、安室さんが作ったのだからきっと美味しいはずだ。

安室さんとデート

安室さんとデート

頭の中をそんな言葉がぐるぐるしつつも、ケーキを食べながらふと視線を向けると、すかさず梓さんが両手でハートマークを作ってにっこりしたのが見えて、私は頭を抱えたくなった。


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