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※同期組を救済した世界線



桜の花が見頃を迎えたある日の朝。

なるべく他のお客さんの邪魔にならないようにということで、比較的空いているモーニングの時間帯を選んで店を訪れた私達を見て、安室さんはほんの一瞬顔を強張らせた。
が、そこはさすがにトリプルフェイス、すぐにいつも通りの笑顔で「いらっしゃいませ」と迎え入れてくれた。表面上はあくまでも温かく。しかし、青空の色をしたその目は明らかに「お前ら何しに来たんだ」とはっきりと訴えていた。

「五名様でよろしいですか。そちらのお席へどうぞ」

「あ、はい」

案内されたテーブルにつくと、安室さんはメニューと水の入ったグラスを持って来てくれた。

「ブフッ」

「こらこら陣平ちゃん。我慢しなって」

「そういうお前もニヤけてんじゃねえか」

「お前らなぁ……」

呆れたように言う伊達さんの横で、諸伏さんはそんな友人達を微笑ましそうに見ている。それから、悪戯っぽい笑みを安室さんへと向けた。

「お勧めはありますか?」

「今の時間帯だとモーニングセットがお得です」

安室さんがメニューを開いて見せる。

「じゃあ、これを五人分お願いします」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

ヒロ、お前もか。安室さんはきっとそう言いたいに違いない。しかし、そこはさすがのトリプルフェイス。微塵も笑顔が揺らがない。

「ちょっと意地悪だったかな?」

安室さんがカウンターの中に入ると、諸伏さんが心配そうな声で耳打ちしてきた。幼馴染みで親友としてはあまり困らせたくないという気持ちがあるのだろう。

「もっと困らせてもいいと思います」

「なまえちゃんナイス。そういうとこ好きよ。惚れちゃいそう」

萩原さんが身を乗り出して言った途端、私達の間に割り込むようにダン!とテーブルに布巾が置かれた。
いつの間にかカウンターから出て来ていた安室さんが布巾でテーブルを拭いている。

「失礼しました。汚れていたもので」

笑っているけど明らかに怒っている。
萩原さんは降参と両手をあげて苦笑いだ。悪ふざけはしても引き際を心得ている感じが世渡り上手なんだなと思わせる。
松田さんはニヤニヤしているし、伊達さんは「ほら見ろ」と言わんばかりだし、諸伏さんは親友の身を案じている様子だ。
ごめんなさい。私もちょっと笑っちゃいました。

「なまえさん、後でゆっくりお話しましょう」

安室さんでバーボンで降谷さんな人が、にこにこしながら言った。でも目が全然笑ってない。

これは今日寝かせて貰えないかも。


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