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「紅葉、綺麗でしたね」

「ああ、そうだな」

ドライブなんて久しぶりだ。

今日は赤井さんに誘われて街からかなり離れた山まで来たから、赤や黄色に染まった山並みに新鮮な感動を覚えた。

都内でも秋を感じることは出来るが、こうして自然の中車を走らせていると、季節の移り変わりがはっきりと感じとれる。

赤井さんは運転中ということで、自然と会話は少なくなってしまうけれど、沈黙を居心地悪く思うことはなかった。
むしろ二人で同じ空間にいるだけで不思議な心地よさを感じていた。
赤井さんもそう感じてくれているのが、僅かな言葉のやり取りや彼の表情から読み取れたので嬉しい。

既に外は暗く、都会にいては見えない星空が広がっていた。

「君が満足してくれたのならば、それでいい」

「大満足です。今日は誘ってくれてありがとうございました」

「いや、君さえ良ければ、またこうして付き合ってくれ」

「はい、喜んで」

車内に甘い空気が流れる。
その時だった。

ハイビームで後ろから照らされたのは。

強烈な白い光に車内が照らされる。
赤井さんが僅かに表情を変えた。
しかし、それは不快に感じたというものではなく、どちらかと言えば面白がっているような、そんな表情の変化だった。

「見つかってしまったか」

「えっ」

「シートベルトは締めているな?少し運転が荒っぽくなるからしっかり掴まっていてくれ」

「は、はいっ」

いったい何事だろうと思いながら、後ろを振り返る。

そこに見えたのは、白いRX-7。

見覚えのある車にまさかと思ったのも束の間、白い車は急にスピードを上げて私達が乗るマスタングの隣に並んだ。

「赤井秀一!なまえさんを解放しろ!」

あ、安室さん…!?

白いRX-7の運転手はやはり安室さんだった。

「断ると言ったら?」

赤井さんは完全に面白がっている口調で言った。
まるで恋愛ゲームの二股プレイ時のイベントで起こりそうな事態だが、いざ当事者となると全く笑えない。

「力づくでも止めてやる…!」

安室さんの言葉と同時に赤井さんがアクセルを踏み込む。

ぐんと上がったスピードのせいで、身体がシートに押し付けられる。
と思ったら、今度はいきなり左に車体が傾いた。
ギャギャギャ!とタイヤと道路が擦れ合う。

(ひえぇ…!)

赤井さんが操るマスタングは、右へ左へとハンドルを切りながら曲がりくねった山道を猛スピードで下っていく。

そして、ぴったりと真後ろにつけていたかと思うと、時には真横に迫りつつ、それを追って来る安室さん。

「相変わらずのドライブテクだな」

赤井さんは至極愉しそうだ。

私はと言えば、突然始まったカーチェイスに、半ばパニック状態に陥りながら必死でシートに張り付いていた。

車のライトに照らされた道は急カーブの連続だが、赤井さんは迷いのない手さばきでハンドルを操って車を走らせている。

「危険運転で逮捕されたいのか!」

「それは困る」

「それなら、大人しく車を止めてなまえさんを解放しろ!」

「悪いが、それも聞けんな」

「赤井秀一いぃぃ!!」

ダメだ。安室さんは完全に感情的になってしまっていて赤井さんしか見えていない。

「あ、赤井さん…」

「心配するな。必ず無事に家まで送り届けると約束しよう」

「はい…」

「では、しばらくいい子にしていてくれ。舌を噛むぞ」

私は口を閉じてこくこくと何度も頷いた。

素敵なドライブデートの締めくくりがこれなんて、あんまりです神様。

まだまだ諦めそうにない安室さんとカーチェイスを続けるマスタングの中で、私は密かに神様を恨んだ。


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