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目が覚めて最初に見えたのは、自分のものではない褐色の腕だった。その腕に腕枕をされている。
それでは、背後に居るのは──

「おはよう、なまえ」

柔らかな声音で告げられた挨拶の言葉に心臓が止まりそうになる。
この声の主を私は良く知っていた。

「ふ、降谷さん……」

「名前で呼んでくれ」

昨日みたいに、と甘く囁いた唇に耳朶を食まれて、ぴゃっとなった。クスクス笑いながら降谷さんが身体を起こす。
自然と抱き起こされる形となった私は、自分の身体を見下ろして息を呑んだ。
身体中、そこかしこに刻みつけられた赤い痕。それに降谷さんが指を這わせる。

「僕は自分でも驚くほど独占欲が強かったらしい」

「えっ」

「僕のものだという証を残したくて、つい夢中になってしまった。こんなことは初めてだったから、余計に」

「は、初めて……?」

正直、嘘でしょという思いでいっぱいだった。だって、相手はあの降谷さんだ。モテまくりだっただろうに、そんなことってあるのだろうか。

「いつも言っているだろ、僕の恋人はこの国だって」

確かにそれは知っている。誰よりも愛国心の強い人だということも。そのために彼の愛車が何度も廃車寸前まで酷使されてきたことも。

「本当に興味が無かったんだ。君に逢うまでは。僕に近付いて来る女性は煩わしいだけだった」

「降谷さん……」

「名前」

「れ、零さん」

「まだ動けないだろう?そのままでいい」

零さんが私をシーツでくるむようにして抱き上げる。眉目秀麗を絵に描いたような男性にそんなことをされてときめかないはずがない。しかも、昨夜、甘い一夜を過ごした相手に。

「一緒にシャワーを浴びよう。僕が洗ってあげるから、君は大人しくしておいで」

「……ハイ」

「よろしい」

満足そうに笑った零さんに浴室に連れて行ってもらいながら、彼のファンの女性達に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

ごめんなさい。あなた達が大好きな零さんは、もう私のものみたいです。


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