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友達だと思っていた子に彼氏を盗られること三回。
友人だと思っていた子達は、彼らの披露宴に参加して、その土産話を私にしてきた。
こうなるともう、自分には人を見る目がないんだと思わずにはいられない。
いずれの時も、まだ深い関係になる前だったことだけが幸いか。

もう友達も恋人も要らない。
これからは一人で生きて行こう。
そう決めたいまの私の夢は、小さくてもいいから庭つきの一軒家を買って犬と暮らすことだ。

そのためにはお金が要る。
今日も遅くまで残業して帰宅する途中、ほんの気まぐれで河川敷を見下ろす土手の上を歩いていたら、見覚えのある姿を見つけた。

「安室さん?」

「なまえさん?」

座り込んでいたから具合が悪いのかと心配したが、何のことはない、彼はしゃがんで足元にいる犬に水をあげていただけだった。

「どうしたんですか、こんな時間に」

「残業です。安室さんは?」

「見ての通り、犬の散歩を兼ねたトレーニングを終えたところです」

「こんな時間に?」

「それはお互い様でしょう」

安室さんは白い歯を見せて笑った。
タオルで汗を拭く姿も爽やかだ。
イケメンは何をしても様になるんだなあ。

「安室さん、犬を飼ってたんですね」

「ええ、最近飼い始めたばかりですが」

「お名前は?」

「安室ハロと言います」

「こんばんは、ハロちゃん」

安室さんの犬は、お座りしたまま「アン!」と一声吠えた。
私が頭を撫でると、尻尾をぱたぱたして見上げてくる。可愛い。

「凄く可愛い。お利口さんですね」

「ありがとうございます」

「私も犬を飼おうと思っているんですが、お金が貯まるまで我慢してます」

「血統書付きの高い犬なんですか?」

「いえ、ちゃんと庭がある一軒家を買いたいので。犬は保護犬を引き取りたいと思っています」

「優しいですね、なまえさんは」

「安室さんこそ。ハロちゃんを見ていれば、良い飼い主さんだって良くわかりますよ」

「そう言われると、何だか照れますね」

快活な笑顔を見せる安室さんの足元で、ハロちゃんはちゃんとお座りしたまま待っている。
私もこんな忠実なわんこが欲しい。

「ご自宅は近くなんですか?」

「そこの通りを曲がって少し行った先です」

「送って行きますよ」

「えっ、でも」

「散歩のついでですから、お気になさらず」

少しの押し問答の末、結局押しきられてしまい、自宅まで送って貰うことになった。
男性と並んで歩くなんて久しぶりだ。
しかし、何を話せばいいのか困ることはなかった。
安室さんはお喋り上手で、絶妙なタイミングで話題をふってくれたり、相槌を打ってくれたりしたからだ。

何より嬉しかったのは、安室さんがハロちゃんのリードを持たせてくれたので、少しの間お散歩気分を楽しめたことだった。

「やっぱり、犬はいいですね」

「僕もハロを飼い始めてから良くそう思うようになりました」

もしかして、この人も心の中に孤独を抱えているのだろうか。

ポアロで見せる完璧な接客スキルのせいで本心がわかりづらいけれど、実は見かけ通りの好青年というわけではないのかもしれない。

「犬は飼い主に忠実で、裏切ったりしませんからね」

「そうですね。信頼関係が築けていれば、ですが」

「安室さんとハロちゃんはどうですか?」

「どうだろう。ハロ、どう思う?」

「アン!」

「ふふ、ハロちゃんは安室さんのこと大好きですって」

素直に羨ましいと思った。
私は誰とも信頼関係を築くことが出来なかった。
一方的に信じては裏切られてばかりだった。
早く私だけのわんこが欲しい。

そうする内にあっという間に自宅に着いてしまった。
名残惜しいが仕方がない。

「今日はありがとうございました。またハロちゃんに会いたいな」

「それなら、非番の時に連絡しますよ。連絡先を交換しましょう」

安室さんがスマホを取り出したので、私も慌てて自分のスマホを取り出し、連絡先を交換した。

「たまには、ハロじゃなく僕のほうも見て下さいね」

「えっ」

「おやすみなさい、なまえさん」

安室さんはハロちゃんを連れてダッシュで帰って行った。
トレーニングした後だというのに元気なことだ。

自宅に入り、入浴や食事をしながら、私は悶々としていた。

安室さんの顔が頭から離れない。

連絡先を交換したのはハロちゃんに会いたいからであって、別に安室さんのことなんて何とも思っていないんだから、というふりをしようとしたが、駄目だった。

もう誰も信じたくない。

でも、安室さんなら…

そんな葛藤を繰り返す内に、いつしか眠りに落ちていた。

久しぶりに見た夢は優しく、安室さんとハロちゃんの三人で仲良く暮らしているというもので、あまりにも幸せそうな自分の姿に、私は眠りながら涙を零していた。

夢は夢。現実はそう優しくはない。


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