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「抱きしめても構わないかな?」

そんなことをわざわざ確認してくるなんてずるい。
頷く代わりに、私は自分から彼の逞しい身体に腕を回して思いきり抱きついた。

フ…、と小さく笑う気配とともに力強く抱きしめられる。

鍛え抜かれた硬い身体の感触と、煙草の匂い。

そのあとは、キス、キス、キス。
めくるめく情熱的なキスの嵐。

今日はバレンタイン。
しかも、久しぶりに逢ったのだから仕方がない。

赤井さんからは薔薇の花束とネックレスを、私からはお酒に合いそうなビターナッツチョコとバーボンを。

恋人同士の熱い抱擁を交わした私達は、互いにプレゼントを交換し合った。

Even distance can't
keep us apart.

どんなに離れていても、私たちの心は結ばれています。

チョコに添えたカードに書かれたメッセージ。
それは私からの精一杯の愛の告白だった。

「熱烈な愛の告白をありがとう、なまえ」

カードに目を通した赤井さんは、片腕に私を抱いたまま、嬉しそうに口元を綻ばせた。
私はというと、恥ずかしくて彼の肩口に顔を伏せたままである。
そうして、彼がバーボンの封を切るのを待っていたのだが。

You have been
the only one for me.

甘い低音で囁かれた言葉に、一瞬頭が追い付かなかった。
しかし、すぐに意味を理解して頬が赤く染まる。

本人の申告によると、彼は一度に一人の女性しか愛せないらしい。
その彼がいま唯一愛している女性が私なのだと告げられたのだから、嬉しくないはずがない。

「嬉しい…」

「本当に?」

「もちろんです。赤井さんこそ、本当ですか?」

「君に嘘は言わんよ」

そう言った唇がまた重ねられる。

「いま住んでいる部屋を引き払わなければ、な…」

「お引っ越しされるんですか?」

「本部に配属されることが決まった。いまの部屋から通うには遠すぎる」

「凄い!おめでとうございます!」

黒の組織を壊滅に導いたことが今回の栄転に繋がったのだろう。
そう私が言えば、赤井さんは「俺の手柄ではない。彼らのお陰だ」と他の二人の名前を挙げた。

確かに彼らの存在も必要不可欠なものだったけれど、赤井さんは文字通り組織を貫くシルバーブレッドとなったのだから、彼もまた欠かせない要素の一つだったことは間違いない。

「だから、今度はいまよりももっと広い家に移ろうと思っている」

「そうなんですね」

「ああ、君と住むからな」

「えっ」

赤井さんは一度離れると、跪いて私の手をとった。

「俺と共にアメリカへ来て欲しい」

「あ、赤井さん…」

「結婚しよう」

まさか、あの赤井さんがこんなにストレートにプロポーズしてくれるとは思わなかった。

「返事を聞かせてくれないか」

半ば呆然としていると、優しく答えを促された。

「もちろん、イエス以外あり得ないです!」

赤井さんに抱きついてそう言うと、ぎゅっと抱きしめられてから、掬い上げるように抱き上げられた。
そのままベッドの上に下ろされて、赤井さんが覆い被さってくる。

至近距離で見るグリーンアイは相変わらず綺麗で、うっとりと見惚れていると、また唇にキスを落とされた。

次第に深く濃厚になっていく口付けに、赤井さんの首に腕を回して応えながら、私はアメリカでの生活に思いを馳せていた。

何しろ、シルバーブレッドの手綱を握らなければならないのだから、相当苦労しそうだ。

それでもやはり嬉しくて堪らないのは、これからはずっと赤井さんの側にいられるから。

その日の夜は、お互いに何度も求め合って、バレンタインに相応しい甘い一夜となったことは言うまでもない。


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