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毎度のことだが、年度末は忙し過ぎる。
しかし、どんなに多忙を極めても弱音を吐くわけにはいかない。
名前を変えて潜入捜査をしている零くんのほうが何億倍も大変だとわかっているからだ。

“降谷零”“安室透”“バーボン”とトリプルフェイスを使い分けている零くん。
時には私立探偵安室透として依頼を受け、時にはポアロの店員として接客業に勤しみ、時には組織の一員として危険な任務をこなし、日々ギリギリのところで組織の内情を探っている零くんには頭が下がる思いだった。

だから、そんな彼に弱った姿など見せて心配をかけてはいけない。
仕事が繁忙期に入ってからは直接顔を合わせることはなく、メールでの連絡だけにとどめていた。
電話では声の調子でバレてしまうからだ。
零くんの鋭さを舐めてはいけない。
彼はFBIのスナイパーに「日本屈指の捜査官の一人」と言わしめるほどのスーパーエリートなのである。

「お帰り、なまえ」

今日はいつもより少しだけ早く仕事を終えて、何とか日付を跨ぐ前に帰宅出来たのだが、何故か灯りがついていたため、驚きながらドアを開けると、エプロンを着けた零くんに出迎えられた。
LEDライトの下で輝く金髪に、相変わらずの端麗な容姿。
久しぶりだからか見惚れてしまった。

「れ、零くん?」

「ただいまは?」

「あ、ただいま」

「ああ、お帰り。今日も遅くまでお疲れさま」

「どうして…」

「いま繁忙期だろ。まともに食べる暇もなく働いているみたいだから、労いに来たんだ」

そういえば、部屋に入った時から美味しそうな匂いがしている。
零くんが何か作ってくれていたようだ。

「メイク落としてシャワーを浴びておいで。その間に支度しておくから」

「うん、ありがとう零くん」

さすが零くん。
心配をかけないようにしていたことさえもお見通しだったらしい。

零くんに言われた通り、クレンジングオイルを染み込ませたコットンでポイントメイクを落としてから、洗顔し、シャワーで汗と埃を洗い流してパジャマに着替える。

部屋に戻ると、零くんがテーブルの上にてきぱきと料理を並べていた。
零くんに促されるまま椅子に座っていただきますをする。

「しっかり食べろよ」

「うん、ありがとう」

「耐熱容器に幾つか作り置きしておいたから、遅く帰って来た時にレンジで温めて食べてくれ」

「零くんは良いお嫁さんになれるね」

「俺は君を奥さんにする予定なんだけど」

「不束者ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく。必ず幸せにする」

何だか流れでプロポーズされてしまった気がするが、料理の美味しさのせいで気にならなかった。
相変わらず零くんの料理は美味しい。

「少しマッサージしてあげるから横になって。脚、むくんでて辛いだろう?」

「うー、嬉しいけど、至れり尽くせり過ぎて申し訳ないよぉ」

「俺が好きでやっているんだからいいんだよ」

「零くんは本当に良いお嫁さんになれるね」

「俺の奥さんは甘え下手だから、これくらいで丁度良い」

「零くん、愛してる」

「俺もだよ。君が想ってるよりずっと愛してる」

「どうしよう、欲情しちゃった」

「それならマッサージは終わったあとにしようか。俺も君が欲しい」

本当に、零くんは素晴らしい恋人だとつくづく思う。


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