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最初の頃、安室さんは梓さんと良い仲なのだと思っていた。
梓さんというのは、喫茶店ポアロのウェイトレスの榎本梓さんのことだ。
名前で呼んでるし、カウンターの中で仲良さそうにしているし、てっきりそうなのだとばかり思っていたのだが、通う内にそうではなさそだとわかって安心した。

女性客にモテモテなのは変わらないけど。

「ねえ、コナンくん」

向かい合って座ってオレンジジュースを飲んでいるコナンくんのほうに身を乗り出すようにして小さな声で尋ねる。

「安室さんの好みのタイプってどんな人だと思う?」

「うーん、しゃべりまくってても嫌がらない人…かなあ」

「えっ、意外」

珈琲を飲もうと持ち上げた手が止まった。

「安室さんて、女の子の話をにこにこしながら聞いてるイメージがあったけど」

「さあ、よく知らないけど、好きになった人にはよくしゃべるんじゃない?」

気のない口ぶりでコナンくんが言った。

「もうめんどくさいから本人に直接聞きなよ。なまえお姉さんにならきっと教えてくれると思うよ」

「コナンく〜ん…」

「そんな目で見ても駄目だよ。こう見えて僕も忙しいんだから」

「そんなこと言わないで…蘭ちゃんのこと相談に乗ってあげるから」

「な、なんのこと?」

「見てればすぐわかるよ。大丈夫、みんなには内緒で協力してあげる。だから、ね?」

「…もう、しょうがないなあ」

コナンくんが妙に大人っぽい仕草で溜め息をつく。
彼と安室さんとは、ある事件に巻き込まれたのをきっかけに知り合ったのだが、実はコナンくんは大人顔負けの賢さと推理力の持ち主で、時々びっくりするほど大人びて見えることを知っているので驚きはしない。

珈琲のお代わりをしようと手を挙げる前に安室さんが笑顔で歩み寄って来た。

「珈琲お代わりですか?」

「はい、お願いします」

さすが観察力に優れた私立探偵。
タイミングばっちりだ。

「ねえ、安室さん」

そんな安室さんにコナンくんが呼びかける。

「なまえお姉さんがデートしたいって」

「コ、コナンくん!?」

「構いませんよ。いつにします?」

「え、え?」

「日曜日空いてるって言ってたよね」

「日曜日ですね。行き先はどうします?」

「ドライブなんていいんじゃない?」

「いいですね。じゃあ、日曜日、10時に迎えに行きます」

「え、え?」

「楽しみだな。約束ですよ?」

「あ、はい!」

安室さんに笑顔で念を押されてこくこく頷く。

「良かったね、なまえお姉さん」

「うん…ありがとう」

あまりの手口の鮮やかさにちょっぴり恐怖を感じながらも私はコナンくんにお礼を言った。

そして、日曜日。

「こんにちは。そのワンピース可愛いですね。よく似合ってる」

「こ、こんにちは。ありがとうございます」

「僕はどうですか?」

「安室さんはいつもカッコいいですけど、今日は一段と素敵です」

「それは良かった。嬉しいな」

時間ぴったりに迎えに来てくれた安室さんと言葉を交わして、車に乗り込む。
安室さんの愛車は、アンフィニRX-7のFD3S。
その助手席で緊張でカチコチになっている私を、安室さんは巧みな話術でリラックスさせて楽しませてくれた。
お陰でずっと笑顔でいられた気がする。
プライベートではよくしゃべる人なのだと初めて知った。

“好きになった人にはよくしゃべるんじゃない?”

コナンくんの言葉が脳裏に甦る。
本当にそうならどんなにいいか。

「今日は楽しかったですね。次はいつにします?なるべく早く逢いたいな」

こうして私の恋は一歩踏み出したのだった。


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