1/1 


今日は午前も午後もみっちり講義があったため、帰る頃には軽い疲労を感じていた。
まだ水曜日だというのに困ったものである。
休みまであと少しと思うものの、疲労感は薄れてくれない。

「ねえ、校門の所にかっこいい男の人がいるって!」

「見た見た!超絶イケメン!」

最後の講義を終えて帰り支度をしていたら、そんな会話が聞こえてきた。
誰かを迎えに来た彼氏だろうと、特に気にとめずに教室を出る。

外に出ると、そこには異様に盛り上がっている学生達の群れがあった。
主に女子が中心だが男子も混ざっている。

「外国人?」

「何歳くらいかな」

「三十路は行ってそう」

「ダンディだよねえ」

横を通り過ぎる時にそんな話し声が聞こえてきて、ようやくまさかと思いはじめた。

でも、だって、まさか、そんな。

「あの車知ってる。マスタングっていうんだよ」

間違いない。
私は急いで校門に向かった。
走っていく内に話題になっている人物の姿が見えて来る。

「赤井さん!」

思った通り、校門の所に立っていたのは赤井さんだった。

赤井さんは私を見ると、咥えていた煙草を携帯用灰皿にしまって、門柱に預けていた背を離した。

「突然来てすまない。だが、どうしても君の顔が見たくなってな」

「私も赤井さんに会えて嬉しいです」

「そうか」

赤井さんがフッと笑う。
ぽんぽんと頭を優しく叩かれると、背後できゃーっと黄色い歓声が上がった。

「ここは騒がしくてかなわんな。部屋まで送ろう」

「ありがとうございます」

マスタングの助手席のドアを開けてくれたので、中に乗り込む。
赤井さんもすぐに運転席に入ってきた。

「お嬢さん。シートベルトを忘れずに」

「ふふ、はい、しっかり締めました」

「また降谷くんに見つかってカーチェイスになると困るからな」

「今日はきっと大丈夫ですよ」

「君の勘を信じよう。帰ったら、シチューを作る予定だが、構わないかな?」

「赤井さんの手料理が食べられるなんて嬉しいです」

「では、行こうか」

滑るように車が動き出す。

明日、大学で知らない子達に囲まれてしまいそうだが、仕方がない。

いまはハンドルを握る赤井さんの横顔に見とれていたいから。


  戻る  
1/1

- ナノ -