テツヤくんは通話ボタンを押すと、わざわざスピーカーにして私にも会話が聞こえるようにしてくれた。
その優しさに涙が出そうだ。

『やぁ、WC以来だね、黒子』

「…はい、赤司君」

WCの時にも似たような会話を交わしていた記憶がある。
あの時はただひたすら怖い人だと感じていた。

『七瀬さんと一緒にいるんだろう?部活帰りに近くのマジバに引っ張って来られたというところかな』

「さすがですね。その通りです」

どうして冷静に返せるのテツヤくん。
経験値の違いか。
私なんて何もかもお見通しな事にビビりまくって声も出ない状態だというのに。

『そんなに怖がらなくてもいいと彼女に伝えてくれ』

「そんなに怖がらなくてもいいそうです、七海さん」

「もうその気遣いさえもが怖い場合、どうすればいいの」

電話の向こうで小さく笑う声。

『君が幼なじみで共通の知り合いである黒子に泣きつくことは解っていたよ。あのテンパり具合からして、即行動するだろう事もね』

「ねえ、テツヤくん…土下座したら許してくれると思う…?」

「無理じゃないですか」

テツヤくんは憎らしいぐらい冷静だった。

『黒子に相談するのは構わないけど、彼には少々酷かもしれないよ』

「えっ…?」

「随分余裕ですね、赤司君。近くにいる僕のほうが有利だと思いませんか」

『思わないな。男として意識されていない黒子よりは俺のほうが有利なのは間違いない』

「怖がられている上に遠距離の赤司くんよりは有利だと思います」

『距離は黒子が考えているほど障害にはならないさ』

「物理的な距離はそうかもしれません。でも精神的な距離はどうでしょうか」

『それは近い内にゼロになる予定だよ』

口を挟む余裕すら無かった。
ただ二人のやり取りを聞いていた私に、「また改めて連絡するよ。今度は直接ね」と赤司くんが言った。

『今日わざわざ黒子に連絡したのには理由がある。実は今度の連休を利用して、誠凛に練習試合を申し込もうと思っているんだ。黒子と君には直接知らせておこうと思ってね』

「七海さん、丁重にお断りして下さい」

「テツヤくん、丁重にお断り申し上げて」


だが、既に決定事項なのだった。
その事を私達は翌日の部活で主将から知らされることになる。



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