私が初めて赤司くんと直接接触したのは、高校1年の冬休み、WC(ウィンターカップ)の会場での事だ。
中学の時、帝光中に通うテツヤくんから間接的に話を聞いたり写真を見たりして『赤司征十郎』という存在を知ってはいたけれど、実際に彼に会うのはそれが初めてだった。

他の部員達に対するものとは違って、紳士的な対応をして貰ったとは思う。
でも、それまでの間に、「頭が高いぞ」「絶対は僕だ」「両の眼をくり抜いてお前達に差し出そう」のアレやコレを目にしていたせいで、第一印象から既に恐怖の対象となってしまっていたのは間違いない。
ビクビクする私に、彼はちょっと困ったように微笑んでいたのを覚えている。
まさか親同士が知り合いだとは思わなかった。


「つまり、WCで君を見初めて即動いたということですね。さすが赤司くん、迅速果断が座右の銘だけあって行動が速いです」

「速過ぎて恐怖を感じる域に達してるよ…」

「赤司くんですから」

「親同士が知り合いじゃなかったらどうしてたのかな」

「別の手を使っていたでしょうね。彼なら何とでも出来たでしょう」

「そんな簡単に何とかなっちゃうものなの…」

「赤司くんですから」

もう何もかもその言葉で片付きそうな気がしてきた。

「でも、私のどこが気に入ったんだろう」

「…それは…」

テツヤくんは視線を逸らして口ごもった。

「……赤司くんが君を気に入った理由は、分からなくもないです」

「え?」

「君はどうなんですか。赤司くんのこと、どう思っているんですか?」

「どうって……」

食事会の席では、バスケの試合の時のような迫力こそ無かったものの、やっぱり常人とは違うオーラみたいなものが感じられた。
育ちの良さが伺える立ち居振る舞いも、生来の頭の回転の速さに裏打ちされたスマートな行動も、私の周りの男の子とはまるで違う。
高級料亭という場所にも臆する様子もなく堂々と振る舞っていたし、さりげなくエスコートしたりしてくれた。
母に勧められて着ていったお気に入りのワンピースを「可愛いね」と褒めてくれた時もビクついていた私に、彼はやっぱり少し困ったような表情で微笑んでいた。
もしかすると、そんなに怖い人ではないのかもしれない、けど。

「試合の時の印象が強くて、やっぱりまだ怖い……かな」

「そう、」

テツヤくんが言いかけた時、ケータイの着信音が鳴りはじめた。
私のじゃないからテツヤくんのだ。

「すみません」

「いいよ、大事な用事かもしれないし、気にしないで出て」

慌ててポケットからケータイを取り出したテツヤくんが、画面を見て固まった。ように見えた。

「テツヤくん?」

「…赤司くんからです」

「ええっ!?」



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