「はい、これ。君のだろう?」 「え……あっ」 赤司がテーブルの上に乗せたのは白い貝殻の形をした片方だけの小さなイヤリングだった。 反射的に左耳に触るが、当然そこには何もない。 失くしてしまったと思っていた物に間違いない。 灰崎に絡まれた時に落ちたのだろう。 「有り難う…赤司くん」 お礼を言いながら、パズルのピースが填まるように何もかもはっきりと理解出来た。 赤司はこれを七海に返すために今日誘ってくれたのだ。 七海は赤司の連絡先を教えて貰っていたけれど、赤司は七海の連絡先を知らなかったから向こうからは連絡出来ない。 だから七海から連絡があった時に、待ってましたとばかりにすぐ返信が来たのだ。 さっきデザートを頼まなくて良かった。 マキアートを飲んだらすぐに帰ろう。 赤司の話を笑顔で聞きながらも、七海は惨めな気持ちになっていた。 勝手に勘違いして浮かれて…馬鹿みたいだ。 「試合、頑張ってね」 「ああ。有り難う。もし予定が合えば明日観に来てくれないか」 きっと以前の七海なら一も二もなく喜んで飛び付いていただろう。 それを思うと、針で刺されたように胸が痛んだ。 「ごめんなさい…明日は用事があって……」 「…そうか、残念だけど仕方ないな」 「せっかく誘ってくれたのにごめんね」 「いや、気にしないでくれ」 もう一度赤司にお礼を言って、七海は彼と別れた。 カフェを出てバス停に向かう。 歩きながら視界がぼやけてきて、呼吸もうまく出来ない。 赤司が拾ってくれた片方だけのイヤリングをしっかりと握り締めながら、泣き出してしまいそうになるのを必死に堪えた。 |