連絡先を渡されたけれど、自分から連絡するのは非常に勇気がいる行為だった。
電話するにしても、何をどう話せばいいのだろう。
もしも万が一、社交辞令で渡しただけなのに本当に連絡してきちゃったよなんて困惑されたりしたら…と思うと、どうしてもボタンを押す指が動かない。
マイナス方面の想像ばかりしてしまう。

とは言え、常識で考えて何のお礼もしないというのも失礼な話なので、「あの時はどうも有難うございました。お話出来て嬉しかったです。バスケ頑張って下さい」といった感じの内容のお礼文をメールしてみた。
我ながら小学生の作文かと思うような文章だが、とにかく失礼にならないように、そして簡潔に、と考えた結果だ。

返信はびっくりするぐらい早く来た。

その内容は、要約すると「良かったら、明日会えないか」というものだった。
出来すぎている。
あまりにもベタな展開に七海は一抹の不安を覚えた。
もしかしてこれはドッキリなんじゃないのかとさえ思った。

とは言え、七海の指は既に素早く動いて「喜んで!」の返信を打っていたのだが。




「赤司くん!」

「やあ、七瀬さん」

既に待ち合わせ場所のカフェに座っていた赤司を見つけて、ぱたぱたと駆け寄る。

「ごめんね、待たせちゃった?」

「いや、僕もいま来たところだよ」

まるでカップルみたいな会話だ。
でもきっと、何も知らない人達から見たらカップルに見えるのかもしれない。
七海はちょっと赤くなりながら赤司の向かい側に腰を下ろす。

ああ…途中で何処かに寄って髪を直してくるんだった。
急いで来たから、アホ毛が飛び出てるかもしれない。どうしよう。
などと考えている間に、赤司は七海の前にメニューを広げてくれている。

「何を頼む?」

「えっと、じゃあラッテ・マキアートにしようかな」

「デザートはいいのかい?」

「うん」

赤司の視線を受けた店員が素早く寄って来て注文を取る。
その短いやり取りから、七海は何とも不思議な印象を受けた。
他人に指示を与える事に慣れているというか、他人を動かす事に慣れている…そんな感じを受けた。




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