眩しいフラッシュが何度も瞬く。

カメラマンを従えた月刊バスケットボールマガジンの記者が、虹村主将率いる一軍のスタメン達にインタビューをしに訪れているのだ。

「紫原くん、こっち向いてー。あ、目は閉じないようにね」

いかにも面倒くさいと言いたげな表情で紫原は写真に収まった。
これが全国紙に載る事になるのだが、彼にとってはどうでもいいことなのだろう。
七海は笑って、うまい棒をそっと彼に差し入れた。

「はい、紫原くん」

「んー、ありがと、七海ちん」

無造作に包装を破いてもりもり食べ始めた紫原を見て、主将も赤司もやれやれといった顔をしてはいるが、仕方がないと諦めてもいるようだった。

インタビューは一人ずつ。
中学生に対しては異例の対応だと言える。
表紙を飾るとともに、大々的に特集が組まれるらしい。

それまでも強豪校として知られていた帝光中学校の男子バスケ部は、全国中学校バスケットボール大会で見事優勝をおさめたことで、より一層バスケ界にその名を轟かせることとなった。

「凄いね、みんな」

「やるべき事を成し、それが結果となった。それだけだよ」

赤司はそう言うが、間違いなく偉業を成し遂げたと言って良いレベルの話だと七海は思う。

しかし、赤司はどうもこの結果に満足していないようだ。

「何か心配な事があるの?」

他の者達がインタビューを受けている間に、二人きりになった時にこっそり聞いてみた。

「心配と言うのかな…先の事を考えると少し、ね」

赤司はゆったりと腕を組み、考え込むような顔つきでそう答えた。

「お前も気付いていたかもしれないが、全中での優勝は“圧勝”とは言い難いものだった。危ない場面も何度かあっただろう?」

「それは…まあ…ちょっと、ヒヤッとした時が何回かあったけど」

「勝ちは勝ちだ。だが、それで終わりではない。来年、再来年のことを思えば課題は多い。監督と部長も同じ考えだ」

「征くんが考える“完璧な勝利”には程遠かったということ?」

「ああ。これでは足りない。今のスタメンでは不十分だ。俺が必要としている人材は一軍の先輩達の中にはいない」

近くに先輩達がおらず、相手が七海だからこそここまで本音を明かしたのだろう。
──いや、もしかしたら緑間には問われれば同じ事を話すかもしれない。
彼は赤司にとっての右腕のような存在になりつつあった。

「秋季の昇格テストで二軍から上がってくる人の中にいるといいね」

「どうかな…今の二軍の状況を見る限り、期待は出来ないな」

記者が「赤司くん!」と呼び、赤司は行って来るよと笑顔を残して去って行ったが、七海の心に生まれたモヤモヤしたものは晴れなかった。


その後、彼らの特集が組まれた月刊バスケットボールマガジンの見出しには、「キセキの世代」という文字が踊っており、以後その言葉が、十年にひとりの逸材とされる彼ら5人を表す称号としてバスケットボール界に定着する事となる。



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