赤司征十郎はバスケプレイヤーとしては小柄なほうだと思う。
男子中学生としては平均程度のはずだが、周りの仲間達が皆飛び抜けて身長が高いため、余計に小さく感じるのかもしれない。

昔からそうだ。
彼は他の男子に比べて成長スピードがゆっくりだったように思う。
大人びた態度と相まって、それが同じ子供の目には弱そうに見えたんだろう。
特に、無駄に体格ばかりが良くて脳みそにはあまり栄養が回っていなさそうなタイプの子供には。

七海と一緒にいることが多かったせいというのもある。
小学校高学年頃までは時々他の男の子に絡まれる事があった。
もちろん、そのたびに赤司は冷静かつ容赦なく相手をねじ伏せていたけれど。
怯えて泣きじゃくる自分より大きな男の子を氷のような冷たい目で見下ろす赤司の姿は、今でもしっかりと七海の脳裏に焼き付いている。


七海が初めて灰崎を見た時、そういったいわゆる「いじめっ子」の側の人間に近い印象を受けた。
しかし、彼は頭の出来が悪いというわけではなさそうで、赤司に絡んで来る事はなかった。
それどころか、赤司の中にある冷酷さを見抜いていたようで、従順とまではいかないが、赤司に逆らう事はなかった。



「征くん、お疲れ様」

近隣中学の一つである四中との練習試合。
入部テストで一軍になった赤司達4人に加え、遅れて入ってすぐに一軍になった灰崎を合わせた一年生5人にとって、今回の練習試合は事実上のデビュー戦となった。

「ありがとう。お弁当も美味しかったよ」

「本当?」

「嘘なんかつかないさ。毎日でも食べたいぐらいだ」

「良かった…」

空になった重箱を受け取って、七海ははにかむように微笑んだ。
直球で褒められるのはさすがに照れくさい。

「おーおー、見せつけてくれるねぇ」

「灰崎くん、お母さんのお弁当美味しくなかったの?」

「いや、そうじゃなくて………なんか調子狂うな……」

「余計な事を言うからなのだよ」

緑間がやれやれといった風に溜め息をついた。
最初から一緒だったのと、同じ時期に揃ってレギュラー入りしたこともあり、最近はこの一年生同士で行動する事が多い。

練習試合には必ずマネージャーが一人帯同する事になっているのだが、今回は七海が指名されて彼らと一緒に来ていたのだ。

「お前ら付き合ってんのか?」

「私と征くんは幼なじみなの」

灰崎は微妙な顔をして離れていった。
もういいや、という事なのだろう。
七海はこの手の相手のあしらいには慣れている。
伊達に10年以上も赤司の幼なじみをやっていない。

灰崎以外のメンバーは、七海と赤司の関係を既に“そういうもの”として受け入れていた。
その点は彼らのほうが柔軟だった。



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