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冬と言えば炬燵(こたつ)。
七海の部屋にももちろんある。
冬は炬燵でまったりするのが一番だと思っているからだ。


「すみません、七海さん」

ドアが開き、ほんの少し息をきらせた幼なじみが部屋に入って来る。
その手にはマジバのビニール袋。

「マジバに寄って来たので遅くなりまし……た……」

黒子がマジバの袋を取り落とさずに済んだのは奇跡に近い。
それくらい彼は驚き、動揺していた。
表情はいつものままだったが。

「どうして赤司君がここにいるんですか」

「やあ、黒子」

炬燵には七海だけではなく赤司が入って寛いでいた。

「七海に会いに来たら、お義母さんが上げてくれたんだ」

黒子は目で七海に訴えた。
が、七海も引きつった顔で見返してくるあたり、赤司の訪問は彼女にとっても予想外の出来事だったのだろう。

実は、赤司と七海は親同士が決めた許嫁なのである。
七海を見初めた赤司が手を回したのだ。

「許嫁の俺が部屋にいても別におかしくないだろう」

「…狙って来ましたね」

黒子は舌打ちしたい気分だった。
今日は久しぶりに七海とゆっくり二人きりでいられる予定だったのに。

「七海さんと約束したのは僕が先です」

「そうだね。だが、そこに俺が加わっても問題はないはずだ。違うかい?」

「それは…」

「まあ、入るといい。外は寒かっただろう」

赤司に促されて黒子は炬燵に入った。
七海を挟んで三人で炬燵を囲む図は、そのまま彼らの関係を表しているようだった。

どうして追い返さなかったんですか、と目で訴えるも、七海は追い詰められた小動物のような顔で首を横に振るばかりだ。
無理もない。
相手は赤司である。
逆らえるはずもない。

「七海、みかんが剥けたよ」

「あ…ありがとう…」

「七海さん、バニラシェイク買って来ましたよ」

「それはどうかな。みかんにはちょっと合わないんじゃないか」

「飲んでみなければわからないですよ。ね、七海さん」

「う、うん…」

「無理強いは良くないな、黒子」

「赤司君こそ。強引な男は嫌われますよ」

「七海は俺が嫌いかい?」

「そ、そんなことないよっ」

「俺も七海が好きだよ」

「僕だって七海さんが好きです」

視線が交わり、火花が散った。
とてもじゃないが炬燵にみかんで寛げる状態ではない。

「七海、俺にもみかんを剥いてくれないか」

「七海さん、僕にも剥いて下さい」

「う、うん、ちょっと待ってね」

「俺が先に頼んだんだ。七海を困らせないでくれないか」

「赤司君こそ」

バチバチと火花を散らす二人を前に、七海はせっせと二人分のみかんを剥き続けた。


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