「あら、征ちゃん何見てるの?」 休憩中、赤司が鞄から取り出したパスケースのような物を眺めていることに気付き、ひょいと覗き込んでみると、それはケースに収められた写真だった。 赤司と彼と同じくらいの年頃の少女が仲良く並んで写っている。 「僕の幼なじみの七海だ」 「へえ、可愛い子ね」 「ああ、可愛いよ」 あらあら、と笑って実渕は写真の少女を改めて見やった。 確かに可愛らしい少女だ。 何よりも隣にいる赤司の表情が、彼にとっての彼女が特別な存在であることを示していた。 「高校に入ってから家庭教師がついたらしくてね」 「まあ、勉強がちょっと苦手なのかしら?」 「いや、そんなことはない。ただ、僕と同じレベルの大学を目指すにはそれなりの学力が必要だからね。家庭教師をつけて勉強しておくのは悪くないと思うよ。その家庭教師が、どうやら僕に声が似ているらしい。この前嬉しそうに報告してくれたよ」 「あら、御馳走さま。じゃあ同じ大学に行くために頑張ってるのね」 「そういうことだ」 写真をしまった赤司は今度はスマートフォンを取り出した。 慣れた手付きで何やらメールを打っているようだ。 「朝と昼と寝る前にメールをする約束をしているんだ」 「ああ、それでお昼の定時連絡なわけなのね」 可愛いところもあるものだと微笑ましく思っていると、 「最近ついたという家庭教師がどうも嫌な予感がする。七海は僕のものだということを今からしっかり教え込んでおかないとね。離れているからこそ布石を打っておくことが重要なんだ」 「そ、そう…」 前言撤回。 赤司征十郎はやはり赤司征十郎だった。 布石などと言ってはいるが、逃がすつもりなどないのだ。初めから。 恐らくは、彼女と初めて出逢った時からずっと。 ぞっと寒気を感じて鳥肌が立った腕を擦る。 幼なじみの少女は逃げられるのかしら、とちょっと心配になった。 もちろん、赤司の目論見を知ったからといって自分が彼女を助けてやることなど出来るはずもないのだが。 休憩もそろそろ終わりだ。 メールを打ち終わった赤司はすっかり主将の顔に戻って、他の部員に次の練習についての指示を与えている。 「可哀想な可愛い子ね」 呟いて、実渕は自らも練習の準備に入った。 |