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「もう時間がないの」

勢いこんで言った私に対し、火神くんは「お、おう…」と引き気味に返した。

今は彼とマジバにいる。
ここまで連れて来るのが大変だった。
何しろいつもセットで一緒にいる黒子くんに見つからないように二人きりにならなければならなかったからだ。
というのも、黒子くんには内緒で火神くんに相談したいことがあったのだ。

「お願い、一緒に考えて。黒子くんの誕生日に何をプレゼントしたらいいと思う?」

「いや…いきなりそんなこと言われても…」

切羽詰まった表情で迫る私に、火神くんはハンバーガー片手に困ったような顔で頭を掻く。
彼の前のトレイの上にはハンバーガーが山積みになっている。
ちなみにドリンクは私のおごりだ。

「野郎相手にプレゼントとか考えたことねぇし。俺じゃなくて誰かそういうの得意そうな先輩に頼めば良かったんじゃねえか?」

「そう言わずに何とか知恵を絞り出して!黒子くんの相棒でしょ!」

「相棒ったってなぁ、お前。アイツのこと何でも知ってるってわけじゃねぇんだぞ」

「そうなの?」

「ああ、むしろお前のほうが詳しいと思うぜ。色々調べたんだろ?」

そう、調べた。
徹底的に調べあげた。
好きな食べ物から本の好みまで調べ尽くした。

「でも、調べれば調べるほどわからなくなっちゃって…」

「お前は考えすぎなんだよ。もっと気楽に考えろよ」

「そうはいかないよ!好きな人の誕生日プレゼントだもん。一番喜んでくれるものを贈りたいよ」

「そういうもんなのか」

「そういうものなの」

火神くんはハンバーガーを一つペロリとたいらげてドリンクを飲んで一息つくと、口を開いた。

「なんつったっけ、アイツが好きなベストセラー作家の新刊。あれ欲しがってただろ」

「一週間前に買ったって言ってた」

「…んじゃ、バスケットボール。そろそろ新しいのが欲しいって言ってたぜ」

「一昨日一緒に買いに行った」

火神くんは上を向いて眉根を寄せ、考え込むような顔で唸った後、顔を伏せて長々と溜め息をついた。

「…悪ぃ、駄目だ。思いつかねぇ」

私も溜め息をつく。

「黒子くん、何を贈ったら喜んでくれるかなあ…」

「七海さんがくれたものならどんなものでも嬉しいです」

「えっ?」

「はっ!?」

火神くんがガタッと椅子を鳴らして身体を仰け反らせる。

いつの間にか黒子くんが隣のテーブル席に座っていた。

「おまっ、驚かすなよ!」

「すみません。二人がいつまで経っても気がつかないので、つい」

「黒子くん、どうしてここに…?」

「火神くんと教室を出るのが見えたのでこっそり後をつけました」

「こえーよ!」

火神くんが突っ込む。

「いつから聞いてたの?」

「マジバに入ってからずっとです。すみません」

全部じゃん!
恥ずかしさのあまり私はテーブルに突っ伏した。
ぶるぶる身体が震える。
その背中にそっと手が添えられた。

「すみません。でも、そういうことなら、火神くんじゃなく僕に直接聞いて下さい」

「うう…だってびっくりさせたかったんだもん」

「嬉しいです」

宥めるように背中を撫でる手に促されて顔を上げると、微笑んでいる黒子くんが瞳に映った。

「火神くんと一緒に仲良く話している君を見て、正直妬きました」

「相談にのってもらってただけだよ?」

「わかってます。それでもやっぱり嫉妬しますよ。僕は独占欲が強いみたいです」

火神くんはもう呆れて何も言えないみたいだ。
でも私は嬉しかったし、何よりも聞いておかなければいけないことがあった。

「黒子くん、お誕生日のプレゼント何がほしい?」

「君を僕に下さい。他には何も要りません」


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