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この時間になるとすっかり陽が落ち、辺りは真っ暗だ。
今頃一般家庭では暖かい部屋で食事中だろう。
そう思うと空腹感が加速した。
みんなを待つ間はいつもこんな感じだ。
まるでこの暗闇の中にひとりぼっちになってしまったような奇妙な寂寥感に身体が支配される。
どんどん身体が冷たくなっていくような、そんな錯覚。

「おっ、今日も早いなー!」

だが、そんなネガティブな思考を吹き飛ばす明るい声がして、七海はそちらへ笑顔を向けた。

「小太郎先輩、お疲れさまです」

「おう。お疲れさん!赤司ならもうすぐ来るぜ」

「はい、ありがとうございます」

七海は頷いた。

「なあ、それよりもうすぐバレンタインだろ?」

「あ、そうですね」

「期待してるからな!チョコ!」

「はい。いつもお世話になっているので皆さんの分用意してきますね」

「あー、そういうのじゃなくって……なんつーか、もっと、こう、」

「葉山」

冷淡ともいえる冷えた声音で名を呼ばれて、葉山小太郎の身体がとび跳ねる。
ギギギ…、と振り返ると、帰り支度を終えた赤司征十郎が立っていた。

「俺とお前の関係は?」

「え……主将と、部員?…チームメイト?」

「そうだ」

赤司は即座に肯定した。そして続ける。

「部活に支障を来たさなない限り、プライベートに口を出すつもりはない」

「それは主将としての意見ってことだよな?一人の男としては…」

「軽い気持ちで俺の七海に手を出したら命は無いものと思え」

「ひえっ!りょ、了解っ!!」

「征くん…」

七海はちょっと呆れたように幼なじみで恋人でもある男に呼びかけたが、当の赤司は、何が悪いと言わんばかりの顔をしている。

「事実を言ったまでだ」

「それは…まあ」

「本当なら義理チョコも廃止したいところを我慢しているんだから、そこは評価してくれ」

「うーん」

「そんなに焼きもちやいてたら、七海ちゃんに捨てられちゃうわよ、征ちゃん」

同じく帰り支度を済ませた実渕がからかうように言う。

「七海が俺から離れることなどあり得ない」

「うん、離れないよ」

「あらあら…フフフ、御馳走さま」

上品に笑って実渕は先に立って歩き出した。

「もうお邪魔しないわ。馬に蹴られたくないもの」

「あっ、レオ姉、俺も!」

「あー腹減ったな」

その後を葉山と根武谷が追いかけていく。

「俺達も行こう」

「うん」

差し出された手を握る。
大きな手はあたたかかった。

「征くんの手、あったかい」

「そうか」

「それに大きいし」

「身長もまだ伸びるよ」

「成長期だもんね」

空腹感はまだあったが、もう寂しいとは感じなかった。
少し先を実渕達が歩いているし、隣には大切な人がいる。

「七海」

「なあに?」

「やっぱり義理チョコはやめないか」

「ダメ」


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