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三月に入って大分暖かくなってきた。
この様子なら桜が満開になるのもすぐだろう。
そこで、天気予報をチェックして、気温が高くてお天気がいい日を選び、緑間を誘ってピクニックに行くことにした。

場所は近所の森林公園。
広い芝生があることで有名なレジャースポットだ。

「やっぱり桜はまだだね」

「今年の開花予報は3月25日となっています」

「そうなんだ。ちゃんとチェックしてるんだね」

「七海さんが気にしていたようなので調べました」

「そっか、ありがとう、真太郎くん」

「礼には及びません。人事を尽くしているだけです」

さすが、座右の銘が『人事を尽くして天命を待つ』だけあって、彼は常に人事を尽くしている。
おは朝の占いを毎朝チェックし、その日のラッキーアイテムを欠かさず持ち歩く。
今日はレジャーシートを片手に抱えていた。

「早速ラッキーアイテムが役に立ったね」

「当然なのだよ」

緑間は眼鏡に手をあて、ふんと鼻を鳴らした。
生意気な態度だが、そんなところも可愛らしく感じてしまうくらい、七海は彼にまいってしまっていた。
もうメロメロだ。
目がハートマークになっているんじゃないかと時々思う。

「真太郎くん、可愛い」

「可愛いのは七海さんです」

「そうかなあ」

「自覚がないんですか」

「そんなに自惚れられないよ」

「七海さんは俺が選んだ女性です。もっと自信を持ってくれないと困ります」

「そうだね、私も人事を尽くさないとね」

「是非そうして下さい」

緑間は、それでいいという風に頷いた。

「お弁当食べようか」

「そうですね」

レジャーシートの上に並んで座り、持って来たお弁当を広げる。
重箱タイプのお弁当箱の中身は、緑間に好みを聞いて彼に合わせて作ってきたものばかりだ。

「いっぱい食べてね」

「七海さんこそ、しっかり食べて下さい」

「うん、頑張る」

頷いて、七海はおにぎりを頬張った。
いつもは少食気味なのだが、今日は緑間と一緒だから少し多めに食べられそうだ。

暫くの間、もくもくとお弁当を食べた。

「風が気持ちいいね」

「まだ少し冷たいですが、気温が高いので丁度良いですね」

「うん、そうだね」

言いながら、用意しておいたスープジャーを開ける。

「それは…」

「おしるこ作って来たの。真太郎くん好きでしょう?」

「ありがとうございます」

おしるこは甘くて美味しかった。
お餅は少し溶けかけていたが、何とか形を保っていたのでよしとする。
レシピ通りに作ったのが良かったのだろう。
味のほうはまったく問題なかった。

「おしるこ気に入ってもらえて良かった」

「…おしるこも好きですが」

「ん?」

「俺は七海さんのほうが好きです」

「私も真太郎くんのことが大好き」

「俺のほうが、人事を尽くしている分、余計に好きですよ」

「真太郎くんには敵わないなあ」

「当たり前なのだよ」

大好きな人が満足そうな顔で笑うから、七海も笑顔を向けた。

この幸せな時間が出来るだけ長く続けばいいと願いながら。


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