「出かける?」 朝食の席で、今日は友達と出かけるからと言えば、征くんは心なしか残念そうな表情になった。 せっかくのお休みの日なのに、一緒にいられないのは私もつらい。 だけど、クラスの子と先約があったのだ。 「カラオケ、か…」 次の瞬間、予想もしなかった言葉が飛び出した。 「俺も行くよ」 やって来たのは、ボーリング場やカラオケボックス、ゲームセンターなどが一つの施設の中に揃っている複合形アミューズメントスポットだ。 入ってすぐのスペースはゲームセンターになっているのだが、とにかく音がすごい。 効果音というのだろうか?ピロリンとかドキュウウゥゥンとか。 沢山あるゲームがそれぞれ音を出しているから、混ざりあって『大きな騒がしい音』になってしまっている。 飲食店に比べて大きめのボリュームでかかっているはずのBGMもかき消されてしまっていた。 「騒々しいな」 「ごめんね、征くん。こういう場所、好きじゃないでしょう」 「俺が無理を言ってついてきたんだ。気にしなくていいさ」 「あ!赤司くん!七海!こっち、こっち!」 クラスの子達とはすぐに合流出来た。 事前にLINEで伝えてあったので、みんな征くんが一緒に来ることは知っていたので、すんなり受け入れられた。 全員揃ったところでカラオケボックスへ移動する。 大部屋の中に入ると、それぞれ思い思いの場所に陣取った。 征くんは端っこで、私は征くんの隣の席だ。 「赤司くんて何歌うの?」 友達がこっそり耳打ちしてくるが、私は首を横に振った。 私もわからない。 何しろ征くんとカラオケに来るのなんて初めてなのだから。 タブレットをタッチして入力しているのは見えたが、何の曲かまでは見えなかった。 そうする内に順番は回っていき、室内にダンサブルな音楽が響き渡った。 「えっ、洋楽?」 「誰?誰?」 「俺が入れた曲だ」 「えっ、赤司くん!?」 マイクを手にした征くんを皆が呆然と見つめる。 征くんはそんな私達の様子を気にした風もなく堂々と歌い始めた。 うまい。 発音はたぶん完璧だ。 難しそうな曲なのに顔色一つ変えずに歌いこなしている。 どうしよう。めちゃくちゃカッコいい。 辺りを見回すと、皆うっとりと聞き入っていた。 さすが征くん。恐るべし。 完璧すぎて怖いくらいだ。 「すまない。少し席を外すよ」 歌い終わり、皆から賞賛の言葉と拍手を浴びると、征くんはそう言って部屋を出て行った。 途端に、私はみんなにもみくちゃにされた。 「あんなカッコいい人が幼なじみで彼氏とかずるい!」 「見せて貸して触らせて!」 もはやカラオケどころではなかった。 誰かが入れた曲が流れているが、誰も歌おうとしない。 征くんが戻って来ると、みんな何事もなかったかのように彼を迎えた。 みんな変わり身が早すぎるよ…。 「七海、これ」 戻って来た征くんは大きなぬいぐるみを抱えていた。 ちまたで有名な癒しクマのぬいぐるみだ。 色々なグッズが売られていて、ここのゲームセンターにもプライズが入っていた。 この大きさのものはかなりの難易度のはずである。 征くんはこれをとりに行っていたのだ。 「今日のお詫びと記念に」 「ありがとう、征くん」 「どういたしまして」 涼しい顔で微笑む征くんの後ろで嫉妬の渦が渦巻いているのが見えた。 「いいなあ…七海…羨ましい…」 「七海ばっかりずるい!」 「見せて貸して触らせて!」 見せないし貸さないし触らせない。 |