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おは朝じゃんけんでは必ずグーを出すことにしている。
何があろうともグーを貫く。それがポリシーだ。

「くだらない」

「真ちゃんにだけは言われたくないよ…」

「俺は常に人事を尽くしているだけだ」

ふん、と鼻で笑った幼なじみは、片方の腕に浮き輪を抱えていた。
おは朝の星座占いで出た今日の蟹座ラッキーアイテムである。

初夏とは言え、さすがにまだ浮き輪は早いよ、真ちゃん。
登校する時も目立ってたんだろうなあ。
195cm越えの男子高校生が浮き輪を抱えて歩く姿はさぞ人々の注目を集めまくっていたことだろう。
せめて空気を入れずに畳んだまま学校に持ってくればいいのに。

「真ちゃん、何それっ!」

登校してきた高尾くんが浮き輪を見つけて、ププッと噴き出す。
真ちゃんは、失礼な奴だと言いたげな顔で彼を睨んだ。

「おは朝のラッキーアイテムだよ」

「おはよう、七海ちゃん」

「おはよう、高尾くん」

「初夏とは言え、浮き輪は早くね?」

「私も思った」

ちなみに歩きながらの会話である。
教室に荷物を置いたら、すぐに移動しなければならない。
真ちゃんと高尾くんはバスケ部の朝練が、私は同じくマネージャーとしての仕事があるからだ。

「高尾くんってほんといい人だよね」

「お、惚れちゃった?」

「惚れてないけど、つくづくそう思う」

「惚れてもいいんだぜ?」

「惚れないけど高尾くんはいい男だよ」

「ありがとう。はい、今朝もフラれましたー」

「お前達は何をやっているのだよ…」

真ちゃんが呆れ顔で見てくるが、これは高尾くんと私なりのコミュニケーションなのだ。

高尾くんは本当にいい人だと思う。
プライドが高い真ちゃんにも上手に付き合ってくれている。
赤司くん以外で真ちゃんが初めて信頼出来る友人として認めた相手なんじゃないかな。
そう考えると嬉しかった。
真ちゃんの実力を認めてくれる人は沢山いるけれど、真ちゃん自身を見てくれる人はそう多くない。
そういう意味では秀徳に来て本当に良かった。
先輩達は厳しいけれど、なんだかんだ言って真ちゃんを受け入れてくれているし。
他の部員達もそうだ。
わがままだの、なんだの文句は言うけど、ちゃんと真ちゃんをチームメイトとして受け入れてくれている。

真ちゃん本人がどう思っているかはわからないが、彼にとって秀徳はベストプレイスだと思っている。
私はと言えば、そんな彼が充実したプレイが出来る環境を整えるべく、日々マネージャー業に精を出している。

「七海ちゃん、手伝うよ」

真ちゃんと高尾くんが着替えて体育館にやって来た時には、私は道具出しの最中だった。

「大丈夫。高尾くんはストレッチ始めて」

「早くしろ」

「はーいはい、今行きますよっと。七海ちゃん、何かあったらすぐ呼んで」

「ありがとう」

先にストレッチを始めていた真ちゃんのところへ高尾くんが駆けていく。
二人は組んでストレッチに取りかかった。

「お前は七海のことが好きなのか?」

高尾くんがぶーっと噴き出す。

「やだ!真ちゃんてば焼きもち?」

「誰が、誰にだ」

「もう、わかってるくせに〜」

「脇腹をつつくな!気持ち悪い!」

先輩達が体育館に入って来ると、さすがに二人の表情が引き締まった。

「ストレッチが終わった奴からランニング!」

はいっ、とその場にいた全員が返事をして、にわかに慌ただしくなる。
急いでストレッチをする部員をよそに、真ちゃん達はもう走り始めていた。

「道具出し終わってます。ドリンク作って来ます」

「おう」

弟のほうの宮地先輩が答えてくれたので、ドリンクを作りに走る。
タオルも用意しないと。

一瞬、走っている真ちゃんと目が合った。

大丈夫だよ、真ちゃん。前だけ見てて。

大好きな彼が大好きなバスケを思いきり出来るように、私は今日も人事を尽くす。


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