副社長……半兵衛さんは、ベッドの上でもやはり女王様だった。

頑丈さが取り柄だったはずの私は、縛られたり、卑猥な言葉を言わされたり言われたり、擦られたりぶっかけられたり注がれたりと、散々やりたい放題されてベッドでぐったりしているのに、病み上がりのはずの半兵衛さんは元気に出勤のための身支度をしている。

病弱なんじゃなかったんですか、と喉元まで出かかった疑問は無理矢理飲み込まざるを得なかった。

「何だい?」

清潔な白いワイシャツの上からネクタイを絞めていた半兵衛さんが私を見て首を傾げた。
ふふ、と笑う。

「そんな物欲しそうな顔をされても、今日はもう相手をしてあげられないよ。そろそろ出ないと秀吉を待たせてしまうからね」

きっちりネクタイをした彼は上着を羽織った。
一分の隙もないスーツ姿からは、淫らで激しい情交の名残などまったく伺えない。
いつもの色気だだ漏れだけどストイックな副社長だ。

私はというと、副社長の計らいで今日はお休みを頂けることになっていた。
副社長と秀吉社長の間で数日前から決められていたことらしい。つまり、こうなるのも全て副社長の計算の内だったということなのだろう。
この人は戦国時代だったら参謀とか軍師をやっていたに違いない。

「でも本当にお休みで良いんですか?」

「ああ、構わないよ」

ベッドサイドに置かれたままだった眼鏡を取り上げながら副社長が答える。

「そこに伏せていたまえ。君にはそれがお似合いだ」

壮絶な色香に満ちた艶やかな微笑とともに流し目を寄越され、私は思わず身を震わせた。
屈辱に震えると同時にキュンとしたのなんて初めてだ。
ドMじゃなかったはずなのに…。

鬼畜な台詞を優しい声音で告げた副社長が部屋を出ていっても、私はまだ迷っていた。
本当に良いんだろうか。
お休みは有り難く頂くとして、副社長はああ言ったけど、さすがに見送りくらいはしないとまずいだろう。
婚約者とは言え、仕事上の肩書きでは彼の秘書ということになっているんだし。

「……よし」

よいしょ、と起き上がる。
ベッドから降りた途端、生まれたての小鹿みたいに脚がブルブル震えたが、何とか服を手に取る事が出来た。

下着を身につけ、ブラウスを手にしたところで「うわあ…」と声が漏れる。
ちょっと直視したくないモノがかかっていて、このまま着るのははばかられた。
蛋白質は時間が経つとえらいことになるのである。

家のものは好きに使って良いと言われていたので、これは後で洗濯機を借りて洗うとして。
とりあえず今は何か他に着られそうなものを探さないと、こうしている間にも副社長は家から出てしまうだろう。

きょろきょろと見回していると、目に入ったのは、昨夜副社長が着ていたワイシャツ。
椅子に無造作にかけられていたそれをお借りすることにした。

着てみると、これが意外と大きい。
当たり前だけど、いくら副社長が男性としては細身であっても、やはり男女の体格差は存在するのだ。

足音が玄関のほうへ移動していくのが聞こえてきたため、私はギリギリ下着が裾から見えないことを確認すると急いで寝室を出て玄関に向かった。


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