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両親の知人で理事長秘書をしている帰蝶お姉さんに、彼女の従兄と会って貰えないだろうかと頼まれた。
いわゆるお見合いだ。

正直言って、大学を出て働きだしたばかりの身としてはまだ結婚というのはピンと来ないのだが、憧れの綺麗なお姉さんに是非にとお願いされてしまっては断るわけにいかない。
彼女と両親の顔を立てるためにも、とりあえず一度会ってみることにした。
結果がどうなるかはともかく、それで義理は果たせるはずだ。
そう考えて臨んだ見合いの席は想像よりも本格的なものだった。


「緊張しないで、リラックスしてちょうだい。二人とも私の身内なんだから」

帰蝶お姉さんが優しく微笑んで言ってくれたお陰で、ほんの少しだけ気持ちが楽になった気がする。
料亭の奥座敷でテーブルを挟んで向かい合って座る一組の男女。
外は日本庭園。
“お見合い”と聞いて想像する光景そのままの図だ。
さぞかし名のある高級料亭なのだろうが、この分では味わって食べる余裕もあるかどうか……。

帰蝶の従兄だというお見合い相手の男性の名は、明智光秀。
一見すると物静かで理智的な美青年といった感じの人だった。
だが、しかし。本当に見た目通りの好青年だったら、奥さんに立候補する女性が続出しているはずだし、お見合いなんてする必要はないはずだ。
何かあるに違いない。

帰蝶の誘導による当たり障りのない穏やかな会話が暫く続いてから、思い切って自分から質問してみた。

「あの、明智さん」

「光秀で良いですよ」

「有難うございます。光秀さん、光秀さんは何かご趣味はありますか?」

「趣味……ですか」

銀髪をさらりと揺らして光秀が小さく首を傾げる。

「そうですね…人を痛めつけること、でしょうか。ああ、痛めつけられるのも嫌いではありません」

「そうですか」

なまえは微笑んだ。
そうして、ちょっと腰を浮かせて申し訳なさそうに切り出した。

「すみません。ちょっと失礼してもよろしいでしょうか。お姉さんにお話したいことがあって」

「ええ、構いませんよ。どうぞ」

快く承諾してくれた光秀に会釈をし、なまえは帰蝶を部屋の外に連れだした。
そして、その場で三ツ指をついて頭を下げた。

「私には勿体無い方ですので、申し訳ありませんが身を引かせて頂きます」

「そんなこと言わないでちょうだい、もう貴女しかいないのよ」

「無理ですよ! レベルが高すぎます! 普通の人間には理解不能な領域に到達しちゃってるじゃないですか!!」

「大丈夫よ、貴女なら光秀のことを理解しようと努力してくれると信じてるわ」

「無理ですって! 無茶振りもいいとこですよ!!」



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