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未来予想図と呼べるほどのものではないけれど、なまえも一応人並みに結婚生活について想像してみたことがあった。

飼うなら犬がいいか猫がいいか。
住むなら一軒家かマンションか。
といった具合に、「こうだったらいいなぁ」というアレコレを考えてみたことはある。

お見合いの席で、“擦り傷が出来たらカサブタを剥いで楽しむ派”だと宣言した夫との生活は、おおむね理想に叶ったものだった。

初夜には、一体どんな酷い目に遭わされるのかとビクビクしていたのだが、おかしなプレイを迫られることもなく、光秀は意外なほど優しかった。
そして上手かった。

「痛いのはイヤ派だと言っていたでしょう」

夫婦として初めての営みを終えた後、恐る恐る尋ねてみたところ、さらりとそう返された時は思わず我が耳を疑ったものだ。
まさかそんな事を覚えているとは思わなかったので。

「これでも私なりに貴女を愛しているのですよ」

ベッドサイドのほの灯りのもと、病的に白いけれども筋肉質な裸身を晒したまま微笑む光秀の姿に、その時初めて彼の内側に触れた気がした。



今日もするコトを致した後。
光秀に腕枕をして貰いながらまったりしつつ、彼に髪を指でくるくるいじられながらピロートークを楽しんでいたところ、彼の仕事の話に話題が及んだ。

光秀は婆裟羅学園の保健室で保健医として働いている。
正確には養護教諭ではなく校医なのだが、保健医という言葉のほうが馴染みがいいということで、彼自身も保健医を自称しているし、生徒や他の教員達もそう呼んでいるのだそうだ。
そしてその仕事を選んだ理由は、やはりというか何というか、理事長こと織田信長絡みだった。

「だと思いました」

光秀の乳首の回りを指で円を描くようになぞりながら笑う。

「でもそれって、別に保健医じゃなくても良かったんじゃないですか? それこそ帰蝶お姉さんみたいに秘書になれば良かったのに」
帰蝶こと濃姫は、光秀との見合いをセッティングされた相手でもある。
見合いの後、何故か光秀に気にいられてしまい追いかけ回されていた時、彼女にも訴えたのだが、責任を取って貰うどころか逆に両親を言いくるめて一気に結婚話をまとめられてしまった。
今考えても酷い話だ。
いいじゃない、とその時彼女は言った。
「確かに光秀は変人だけど、おしっこを引っかけられて喜ぶ変態とは違うんだからいいじゃない」と。

その違いがどんなものなのか、またどの辺りに境界線があるのか、今でもさっぱりわからない。
怖くて聞いてみることも出来ない。

「秘書じゃダメだったんですか?」

「……その発想はありませんでした」

光秀は雷に撃たれたような顔をしていた。
本当に気付かなかったらしい。
この人は妙な所でお馬鹿というか天然な部分がある。

「言われてみればそうですよね……秘書になれば、どれだけつきまとってもストーキングなどと言われることもなく一日中ベッタリくっついていられるわけですから。これほど美味しいポジションは他にない」

「やってる事は変わらないし、絶対信長おじさまには嫌がられますけど、まあそうですね」

「今からでもなれると思いますか?」

「うーん、秘書検定受けてみるとか? 結構難しいって聞きますけど」

「勉強には自信があります。こう見えて頭は良いのですよ!」

「婆裟羅学園七不思議の一つですよねー」

興奮して再び覆い被さってきた光秀の背中をなまえは優しく撫でた。



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