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あれは七歳の雛祭りの時の事だ。

一年に一度の雛祭りの時にだけ飾られる雛人形は、牛車や婚礼調度まで付いた立派な七段飾りで、これが自分のための物なのだと思うと誇らしくて幼いながらに心が踊ったものだった。

それが、遊びに来ていた親戚や両親と一緒にちらし寿司を食べて戻って来ると、生首だけが並ぶ生首人形と化していたのである。
驚くやら怖いやらで泣き出した私の前に、従兄の光秀が雛壇の陰からゆらりと現れ、

「どうです、素敵でしょう」

とのたまったせいで、それ以来雛人形はトラウマとなってしまった。

「そういえばそんな事もありましたねぇ」

トラウマを植え付けた張本人は、当然のような顔をして我が家の食卓に座り、あの日と同じように雛祭りのちらし寿司を優雅に食べていた。

「あの頃は私もやんちゃでしたから」

「今もだよ!」

含み笑った光秀は、すらりとした長い腕を伸ばして私の頭を撫でた。
可愛い、可愛い、とあやすようなその仕草も、今は怒りを煽るばかりだ。

「貴女が悪いのですよ、なまえ」

あくまでも『怒って膨れる子供を宥める年長者』といった感じの穏やかな口調で光秀が言った。
首をやや左側にかしげるようにして微笑みかけてくるが、長い銀髪で右目が隠れていて怖い。
とても怖い。
さながらビジュアル系貞子といった雰囲気だ。

「私が来ているのに、雛人形ばかりうっとりと眺めているから。妬いてしまうじゃないですか」

「もうやだ、光秀の馬鹿…!」

焼きもちで人形を生首にするとかあり得ないし怖い。
あの後お雛様はちゃんと修復してずっと大切に扱っているが、もし何か祟り的なものが起こったら光秀のせいだ。

「さあさあ、私の菱餅をあげますから機嫌を直して下さい」

「ひなあられもくれる?」

「ええ。全部あげますよ」

フフ…と光秀が笑う。

「だから、その帯で縛らせて下さい。雛人形の前で拘束目隠しお姫様ごっこをして遊びましょう。白酒もたっぷり飲ませてあげ」

「縛らせないし遊ばない!!!」



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