吸血鬼に襲われる夢を見た。 後ろから覆い被さるように抱きしめられて拘束され、何度も何度も首筋を咬まれる夢だ。 でも、それは夢であって夢ではなかった。 目が覚めたら本当に誰かに後ろから抱きしめられて咬みつかれていたからである。 “誰か”、じゃない。 こんな事をするのは従兄の光秀しかいない。 しかも、咬まれているだけじゃなかった。 光秀は横向きに寝ている私の後ろから覆い被さっていたのだが、パジャマの裾から中に潜りこんだ手にいやらしい手つきで胸をまさぐられていた。 「み、光秀…!」 「おや。目が覚めましたか」 「目が覚めましたかじゃないっ! 何やってるの!!」 「ナニかと問われれば、ナニでしょうねえ」 くっくっと笑った光秀が首筋を舐めあげる。 「も、やだッ、離してってば…!」 ごすっ。 そんなつもりは全くなかったのだけれど、もがいている内に偶然光秀の脇腹に肘鉄が入ってしまった。 「あ、ごめ──」 「ああッ…!」 光秀はベッドから転がり落ちながら恍惚の表情で呻いた。 これだけ見るとMに見えるかもしれないが、光秀はただのMじゃない。 Sを究め過ぎて一周回ってMの極地にまで辿り着いた、究極の一人SM男なのだ。 「痛い痛い、クククク…」 長い銀髪を揺らして光秀がゆらりと顔を上げる。 その上半身がベッドに這い上がってくるのを見て、私は反対側の壁ギリギリまで飛び退いた。 「知っていますか、なまえ。『いとこ同士は鴨の味』なんだそうですよ」 「わっ、私なんか食べてもおいしくないよっ!」 「ああ…イイですねえ、その怯えた顔。凄くそそります」 じり、とにじり寄った光秀が、顔を近づけて喉で笑った。 そうではなく、と甘くて冷たい声が囁く。 「セックスの相性が良いという意味ですよ。病みつきになるくらいハマるのだとか」 「もうやだ、光秀こわい」 半泣きになった私をまるでご馳走でも見るようなうっとりした目で見るのはやめて欲しい。 怒っても嬉しそうな顔するし。 叩いても嬉しそうな顔するし。 泣いても嬉しそうな顔するし。 キレても嬉しそうな顔するし。 もうどうすればいいのかわからない。 「試してみませんか」 「試してみません!」 仰け反って哄笑する光秀をぐいぐい押して部屋から追い出したときには、朝だというのにぐったり疲れきっていた。 最悪の目覚めだ。 それでも学校は待ってくれない。 私は着替えるために、光秀のせいで皺くちゃになって乱れたパジャマのボタンに手をかけた。 |