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授業中、シャーペンを握る手に何か違和感を感じるなと思ったら、指の爪の脇の皮が一筋はがれかけていた。
痛くはないけど、シャーペンを動かすたびに気になって仕方がない。
ぴろぴろとたなびくように揺れる皮。
いいや、取っちゃえ。

「あ」

しまった。思いきり引っ張りすぎた。
皮だけでなく肉まで裂けてしまい、どばっと血が溢れ出てきたそこを見ていると、隣の席に座っていた友達がふとこちらを見て黒板に目を戻し、また勢いよくこちらを見た。
見事な二度見だ。

「ちょ──だ、大丈夫!?」

「どうしたんだい?」

彼女の声を聞きつけた竹中先生が尋ねてくる。

「先生、苗字さんが指から大量出血してます!」

竹中先生は私の手を見て、「ああ本当だ、ひどいね」と、さして酷いとは思っていなさそうな、そして全く興味なさそうな声音で呟いた。

「早く保健室に行きたまえ、苗字君」

さっさと授業の続きに戻りたいという気持ちが手に取るようにわかる声で竹中先生は言った。
これが今心配そうに私の指にティッシュを押しあててくれている友達が怪我したんだったら授業を中断してでも先生自ら保健室に連れて行っていたんだろうな。
「ねえ、竹中先生とどこまで行ったの?」と尋ねてみたくなる気持ちをぐっと抑え、大丈夫だからと友達に笑いかけて私は保健室へ向かった。



「先生ー血が出たー」

「おやおや」

ギシ、と軋む音とともに椅子を回転させて私の指を見た保健医の明智先生は、「ああ…これは痛そうですね」と何故か嬉しそうな笑顔で呟いた。
この学園の先生はみんなちょっと変わっていると私は思う。

「消毒して絆創膏を貼っておきましょうか」

「はーい」

真っ赤に染まったティッシュを外すと、また傷口から新たな血が盛り上がってきた。
それを舐めるように見つめる先生の視線を感じながら、彼の向かい側の椅子に腰を下ろす。

白くて冷たい大きな手にやんわり手を握られ、上から消毒液をかけられると傷口がピリピリ痛んだ。
透明な消毒液に赤い血が綺麗に洗い流されていく。

「貴女の血と肉はとても綺麗で美味しそうですねぇ」

「…美味しくないですよ」

何がそんなに面白いのか、先生は愉しそうに笑っている。
でも別に切り刻まれたりする事もなく、出血が収まってきたところで白いシートタイプの絆創膏を巻かれた。
「有り難うございました」

「また怪我をしたらいつでも来て下さい。怪我をしてなくても来て構いませんよ」

保健室を出る時、ドアを閉めようとして振り返ると、先生はまだ私を見ていた。
白い蛍光灯の灯かりの下で輝く白衣を身に纏う彼は、何故か神々しいとは真逆の禍々しいイメージを抱かせる。
手招きするみたいな仕草でゆっくりと手を振ってみせるその姿に、『死神』という言葉が頭に浮かんだ。



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