1/1 


エレベーター内を模した空間の中を、なまえ達を乗せたシートは上がっていく。

一番上まで着くと、切り取られた窓の部分から外が見えた。
美しい夜景が見えたと思ったのも束の間、シートは突然急降下を始めた。

辺りに悲鳴が響き渡る。

なまえは悲鳴こそあげなかったものの、必死に安全バーを掴んでいた。
隣を見れば、余裕の笑顔の明智光秀。
ただし、その長い髪は重力に反して全て上方に持ち上がっていて、広がる銀髪の隙間から片目がぎょろりとなまえを見据え、赤い口がニヤリと笑った。

「ぎゃああああああ!!!」

なまえは落下しながら声を限りに叫んでいた。


「もう!ほんとに怖かったんですからね!」

「おやおや」

「絶対わざとやったでしょう!」

「そんなつもりはなかったのですが」

クックッと笑う夫をちっとも信用出来ない。
絶対わざとだ。

無事地上に戻ったなまえ達は、港町風の園内を歩いていた。
港には大きな客船が停泊しており、海はイルミネーションで彩られている。
なまえ達は、開園15周年記念イベントが行われているネズミーシーに来ているのだった。

「まあまあ、これで許して下さい」

赤ワインを渡される。
ここではアルコールが飲めるのだ。

「女房酔わせてどうする気ですか」

「それはもう、後ほどしっぽりと」

「えっち!変態!」

「ひどいですねぇ。いいじゃないですか、新婚なんですから」

「うう…」

光秀は婆裟羅学園の保健室で保健医として働いている。
正確には養護教諭ではなく校医なのだが、保健医という言葉のほうが馴染みがいいということで、彼自身も保健医を自称しているし、生徒や他の教員達もそう呼んでいるのだそうだ。
その彼の休みに合わせて、なまえ達は少し遅くなった新婚旅行として、ネズミーリゾートに泊まり掛けのプランで遊びに来ているのだった。

「夫婦らしいことをしてあげられませんでしたからね、ここではたっぷり甘えて下さい」

「光秀さんが優しい…」

「どうして怯えた目で見るんです。ゾクゾクするじゃないですか」

「えっち!変態!」

赤ワインは美味しかった。

ちなみに、記念撮影用にふざけてミッチーマウスの耳型カチューシャを光秀に着けたのだが、似合いすぎて逆に怖かった。

カチューシャを着けたまま夫婦の営みを迫られたり、ベッドでぐったりしているところを記念撮影されたりしつつ、翌日もはしゃぎまくった。

それもこれも良い想い出である。


  戻る  
1/1

- ナノ -