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「光秀が色っぽい…」

「何故ショックを受けているんですか」

「光秀の馬鹿!知らない!」

「理不尽ですねぇ」

クックッと笑う従兄の光秀は、上のほうは黒地で、下に向かうにつれて紺色から藍色へと変わっていくという不思議な色合いの浴衣を着ていた。
でもそれがよく似合っている。

私も浴衣を着てきたのに、どう見ても光秀のほうが色気がある。
ふてくされていると、私の手を光秀の大きな手が握りこんだ。

「どうして手を繋ぐの…?」

「デートだからですよ。馬鹿ですね」

光秀の銀髪が夜風に吹かれて揺れる。

「こんな可愛い子がはぐれたら危ないでしょう」

薄闇の中に沈む神社の境内には屋台が並び、人々がひしめいている。
子供の頃は何となく不気味で怖かったお囃子の音が、今は私の機嫌を上昇させていた。

「光秀、りんご飴食べたい」

りんご飴の屋台を見つけて光秀の手を引く。

「チョコバナナにしませんか?」

「どうして?」

「そっちのほうがいやらしい」

「光秀の変態!」

光秀は笑いながらりんご飴を買ってくれた。
中身のりんごはあまり美味しくないのだが、飴の部分が美味しいので、つい毎回買ってしまう。

「なまえ」

「ん?」

不意に光秀に手を引かれて引き寄せられ、抱き込まれる。
すぐ横をわたあめを持った子供が猛スピードで駆けて行った。
光秀が引っ張ってくれなかったらぶつかっていたところだ。

「ありがとう」

「子供は嫌いです」

光秀は冷たい表情で子供が消えた方向を見ていた。
光秀の子供嫌いは筋金入りだ。
前世できっと生意気な子供に振り回されたりしたのだろう。

「もう離していいよ」

「もう少しこのままで…向こうの暗がりに行きませんか。すぐ済みます」

「行かないしヤらせない」

懐に入り込もうとしていた手をぺちっと叩く。

「せっかくコトがヤりやすい浴衣を着ているのに」

「時々、光秀が本気で言ってるような気がして怖いんだけど」

「私はずっと本気ですよ」

でなければ、寝起きを襲いに行ったりしませんよ、と含み笑う光秀が怖い。

「そ、それより、焼きそば!焼きそば食べよう」

「食べ物ばかりですね」

「光秀は何かやりたいことある?」

「貴女を食べてしまいたい」

「もう、光秀のえっち!」

とりあえず、焼きそばは買って貰った。
お腹も満たされたところで、他の屋台にも目を向ける。

「金魚可愛いね」

「ちゃんと面倒が見られるなら掬ってあげますよ」

「いいの?」

「どうせこのままでは弱って死ぬだけです。何匹か少し延命させてやるくらいいいでしょう」

優しいんだか残酷なんだかわからない。

金魚を掬う光秀の手は慈悲深いお坊様のそれのようでもあり、命など何とも思っていない悪魔のようでもあり、私はますますこの従兄のことがわからなくなった。


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