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この奇妙な戦国時代にタイムスリップして半年。ようやく帰る方法が判明した。
私を保護してくれた光秀さんが部下に命じて調べさせてくれていたのである。
かつて同じように神隠しに遭ってこの世界にやって来た人が書き記した書物が見つかり、そこに帰る方法が書かれていたのだ。
それによると、今度の満月の夜、元の世界への道が現れるらしい。

やっと家に帰ることが出来るとわかり、私はせっせと帰り支度を進めていた。
神隠しに遭った時、ちょうど旅行に行くところだったので、ボストンバッグに着替えなどが入っていたので助かった。
いまはその荷物の整理をしているところだ。

「憎らしい方ですね」

いつものように気配も足音もなく現れたかと思うと、荷造りする私を恨めしそうに見ながら光秀さんが言った。
月の光を受けて輝く長い銀髪が美しい。
鑑賞するだけなら綺麗な人なんだよね。

「突然現れたと思ったら、何も残さずに帰ってしまうと言う。私の心を散々かき乱しておいて、薄情だとは思いませんか」

「人聞きの悪いこと言わないで下さい。私と光秀さんの間には何も色っぽい関係はなかったじゃないですか」

「だから後悔しているんですよ」

光秀さんが私の前に膝をつき、にじり寄って来る。

「いっそ身体を繋いでしまえば貴女を留め置けるのでしょうか」

「ひえっ」

人形めいた美貌が間近に迫ってきて、思わず後退った私の上から光秀さんが覆い被さってくる。
私はあわあわと必死に畳の上を這いずって逃げたが、光秀さんも四つん這いのままじりじりと追いかけてくる。
まるでホラー映画だ。怖すぎる。

ついに壁際まで追い詰められた私は悲鳴を上げた。


「ひどい……酷すぎます……」

「私は最高に良い気分です。ああ、楽しかった……!」

顔を手で覆ってしくしく泣く私とは対照的に光秀さんは上機嫌だった。
こちらとしてはホラー映画に出てくるお化けに貞操を奪われた気分なので、何がそんなに楽しいのかさっぱりわからない。

ようやく迎えた満月の夜。

私は光秀さんの馬に乗せて貰って、私が「落ちてきた」川までやって来ていた。

あの日から今日まで、何度も何度も光秀さんに犯された。それこそ、帰る前に赤ちゃんが出来てしまうのではと思うほどに。

もしかして帰さないように軟禁されるのではと心配していたのだが、光秀さんはちゃんと約束を守ってくれた。

「本当に帰れるんでしょうか」

「さて。私としてはどちらでも構いませんが」

その時、私達の目の前に天に向かってキラキラと光る道が現れた。
これを上っていけば帰れるということだろうか。

「光秀さん、今までありがとうございました。お世話になりました」

「いえ、私も楽しかったので礼には及びませんよ」

「では、さようなら──って、なんでついてくるんですか!?」

「私も共に行こうかと」

「ええっ、ダメですよ!」

「そうつれないことを言わずに」

「ダメダメ、絶対ダメですからねっ!」



「ほう、これが先の世ですか。随分と明るいのですね」

「あまりキョロキョロしないで下さい。それでなくとも目立つんですから」

私は半泣きになりながら光秀さんの手を引いてマンションの自宅に向かっていた。
そう、ついてきてしまったのだ、この人。
そして、近くのコンビニで買い物がてら確認したところ、驚いたことに私が神隠しに遭ってからほとんど時間が経っていなかったことがわかった。

「着きましたよ。入って下さい」

やっと辿り着いた自宅の玄関ドアを開けて中に入ると、懐かしさがどっと押し寄せて来た。
室内は私が旅行に出掛けた時のままだ。

「あ、草履はそこで脱いで下さい。えーと、まずはお風呂かな」

草履を脱いだ光秀さんさんにソファに座って貰って浴室に向かう。
バスタブにお湯を溜めながら戻ってくると、お米を研いで炊飯器をセットしておいた。

「光秀さん、先にお風呂どうぞ。とりあえず、最初なので洗い方教えますね」

「ありがとうございます」

光秀さんは素直に浴室までついてきた。
おとなしすぎて何だか不安になる。何も企んでないよね……?

「髪はこの入れ物の中身をこれくらい手に取って泡立てて洗います。身体はこっちの入れ物の中身を同じように出して洗って下さい」

と説明したものの、不思議そうに首を傾げる光秀さんを放っておけなくて、結局私が洗ってあげることになった。

「これから楽しくなりそうですね」

お風呂から上がり、お父さんが泊まりにきた時用に置いてあったスウェットを着てご飯を食べる光秀さん。

一ヶ月後、周辺で被害報告があった痴漢や強盗や通り魔がことごとく惨殺死体となって見つかることになるのだが、光秀さんがこの世界に持ち込んだ二本の鎌は、いまはまだ不吉に輝きながら我が家の納戸に静かに立て掛けられていた。


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