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私の従兄の明智光秀は色々な意味で危険人物なのだが、ぱっと見ただけなら『理智的で物静かな好青年』に見えるらしい。

確かに間違いではない。
間違いではないけれども、それだけではない。
縛るのも縛られるのも好きだという男を、好青年とは言わないはずだ。

でも、イブの夜、私を迎えに来た光秀は何処からどう見ても『理智的で物静かな好青年』にしか見えなかった。
おまけにそこに『美しい』という形容詞も追加したい。

「…光秀が普通にカッコいい…」

「どうしてそこでショックを受けるんですか」

光秀は黒いタートルネックの上にジャケットを着ていた。
ネクタイこそ絞めていないけど、レストランのドレスコードにも充分間に合うきちんとした装いだ。
いつもは肩に流したままにしてある長い銀髪も、後ろで一つにまとめてある。
ラーメンを食べるときだって私が自分のゴムを貸して縛ってあげてたのに。

「なまえも可愛いですよ。そのワンピース、とてもよく似合っています」

「…光秀がこわい…」

「褒めたのに泣きそうになるなんて失礼な子ですねえ」

光秀はくっくっと肩を揺らして笑った。
いたぶるような笑い方はいつもの光秀だ。
それでなんだかちょっと安心した。


光秀と一緒に訪れた丘の上の教会は人でいっぱいだった。
入口で入場料を払って中に入る。
このゴスペルコンサートはチャリティーイベントなので、観客が払う入場料はそのまま寄付金となる。

「光秀、大丈夫?」

「何がです?」

「だってほら、教会だから。ダメージ受けたりとかしない?」

「今のところ問題ありません」

「教会の扉に触れた途端、手がジュッてヤケドしたりしない?」

「しませんよ」

悪魔や吸血鬼にとって教会は敵地だから、もしかして光秀も…と思ったのだが、平気らしい。
コンサートの最中も特に具合が悪くなった様子もなかった。
でも、教会が平気なら、光秀から逃げるときは何処に逃げ込めばいいのだろう。

「何をしているんですなまえ。ほら、行きますよ」

光秀に引っ張られて外に出る。

私達はレストランに向かった。
次はクリスマスディナーだ。
やっぱりこれはデートなんだなと思うと心臓が落ち着かなかった。



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