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昔、まだ小さな子供だった頃半兵衛と一緒に見たメーテルリンクの『青い鳥』のラストのように、もしも私達の家に青い鳥がいたなら、喜んで半兵衛に譲っていただろう。

物語の中では、青い鳥を譲って貰った隣家の子供はそのお陰で病気が治って健康になるのだ。

その後、青い鳥は再び何処かへ飛び去ってしまったけれど、たぶんあの兄妹はもうそれを探しに行くことはないだろうと思われた。
彼らはちゃんと大切なものを見つけられたはずだから。

お馬鹿な子供だった私はそうとも知らず、「あんなに一生懸命探してたのにかわいそう…鳥籠に入れておけば逃げなかったのにね」などと情緒も何もないことを言って涙ぐんでしまい、そうだね、鳥籠に捕まえておけば良かったね、と半兵衛に優しく慰められたのだった。


私はまだいるはずのない青い鳥を探している。




「すまないね、わざわざ足を運ばせてしまって」

「気にするな。調子はどうだ、半兵衛」

「心配いらないよ。今回は検査入院のようなものだからね」

白い病室の白いベッドの上の半兵衛は、いつも以上に白くて、今にも消えてしまいそうなほど儚げに見えた。

彼の前にいる兄の秀吉が見るからに頑健そのものだから、余計にそう見えるのかもしれない。
兄が座るとパイプ椅子がまるで針金細工の玩具のようだ。

私は二人が会話する間にお見舞いの品をテーブルに置き、持ってきた水筒から飲み物を注いで兄と半兵衛に渡した。

「ああ、有難う」

「すまんな」

「お花変えてくるね」

持って来た花と花瓶を抱えて病室を出る。
鼻の奥がツンとしたのは花粉を吸い込んでしまったせいではなかった。

去年、半兵衛は重い肺の病気で何ヶ月も入院することになった。

半兵衛いわく、生まれてからこれまで一度も大病を患っていなかったことのほうがむしろ不思議なくらいで、いつかはこうなると分かっていた、ということだが、それでもショックだったのは間違いない。

幸い命に別状はなかったものの、元々身体が弱かったこともあり、退院後は少し無理をするとすぐに体調を崩してしまうようになっていた。

本人は一度たりとも弱音を吐いたことはなかったし、愚痴もこぼすこともない。
でも、だからこそ一人で苦しんでいるのがわかって、私は見ていることしか出来ないのかと思うと堪らなく悔しかった。

秀吉に心配をかけまい、弱い部分を見せまいと気丈に振る舞う半兵衛の姿が、もどかしくて、辛い。

半兵衛が必要としているのも、共にありたいと願っているのも、兄の秀吉なのだ。

私ではなく。

私はきっと最初から最後まで半兵衛にとっては『秀吉の妹』という存在でしかない。
彼に幸せを呼ぶ青い鳥にはなれない。



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