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「うまい! これすっげぇうまいよ!」

「そ、そう?」

「うん、最高! まつ姉ちゃんも料理上手くて利のヤツは幸せそうだけどさ、さつきちゃんの彼氏になるヤツもきっと幸せなんだろうなァ。俺が立候補したいくらいだよ」

「やだ、慶ちゃんたら。大袈裟すぎ。これくらい誰でも出来るって」

そう言いながらも、褒められた女子は満更でもなさそうだった。
頬なんてほんのり赤く染まっている。
他人事ながら天音はやるせない気持ちになった。

「あーあ、また女の子落としちゃって……慶次君はホストになったらナンバーワンホストになれるよきっと」

「奇遇だね、僕もそう思っていたところだ」

思わず呟けば、呆れた様子を隠さずに半兵衛が即座に同意した。

慶次は女の子に優しい。
優しいけれども、誰にでも同じくらい愛想良く振る舞う八方美人であるため、せっかく立ちかけたフラグを自らへし折ることもしばしばだった。
むしろわざとそうしているんじゃないかと天音は疑っている。

人よ恋せよ、恋はいいよ、と普段から人に言い続けている慶次だが、彼自身の恋は、初恋の女性が自分の親友と結ばれてしまうという形で儚く散ってしまった。
それ以来、慶次は無意識の内に心にバリアーを張っているように天音には思えた。
心を開いているようで開いていない。
誰にも奥深くまで踏みこませないように、軽いお調子者を貫き通すことで、女の子が自分に本気で惚れないように予防線を張っているように思える。


慶次の胸元に下げられている御守りを見て一つため息をつき、天音は自分が担当している作業を再開した。
すなわち、油を引いたフライパンで切った食材を炒めるという作業だ。



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