「幸むるぁぁあああ!!」 「お館さむぁぁああ!!」 グラウンド中に響き渡る威勢の良い掛け声が二つ。 教師の武田信玄と、二年生の真田幸村である。 「真田の旦那も大将も元気だねぇ…」 引きつった顔でそんな二人を見守るのは、猿飛佐助。 いつものことながら、暑苦しいことこの上ない。 このやり取りを見慣れているはずの佐助でさえげんなりするのだから、他の生徒達はもっとダメージが大きいだろう。 今日はただでさえ暑いのだ。 二人のやり取りを見ているだけで、体感気温が更に上がっていく気がする。 夏本番を間近に控えた今日、この婆裟羅学園では球技大会が行われていた。 幸村と佐助は先ほどサッカーの試合を終えたばかりだ。 健闘を讃えあっている師弟にやれやれと肩をすくめ、佐助はこっそりその場を後にした。 サボりではない。息抜きだ。 かすがが聞いたら「言い訳をするな!」と厳しい一喝が飛んでくることだろう。 一応後ろめたい気持ちはあるので、人気の無さそうな場所に行くことにした。 少し休憩したら、まだ興奮冷めやらぬ状態であるだろう幸村を回収しにいかなければならないから、そう遠くまでは行けないが。 校舎の角を曲がったところで、照りつける初夏の陽射しを避けるように木陰のベンチにひっそりと身を寄せる男女の姿を佐助は見つけた。 天音と半兵衛だ。 ベンチに腰かけた天音に、半兵衛が膝枕して貰っている。 一瞬、イチャついてるのかと思ってドン引きしかけたが、すぐにそうではないことが分かった。 天音の膝に頭を預けている半兵衛は力無くぐったりとしていたし、顔が真っ青だ。 近づいていくと、半兵衛の白い額にうっすらと汗の粒が浮かんでいるのが見えた。 天音の手が優しい手つきでそれを拭い、顔に垂れかかった銀髪を指で梳き流す。 「竹中の旦那、大丈夫?」 尋ねる声は自然と小声になった。 「ん、ちょっと具合が悪くなっちゃったみたい」 よく見れば、半兵衛の項には濡れたハンドタオルが掛けられている。 ああ、と佐助は納得した。 「今日は蒸し暑いからねぇ。水は飲ませた?」 「うん。さっきスポーツドリンクを飲ませた。朝からずっとこまめに水分補給してたんだけどなぁ…」 「保健室は?」 まず思いつく休憩所である場所を挙げて尋ねると、天音はちょっと困ったような微笑みを浮かべた。 「さっき他のクラスの子に聞いたんだけど、もう一杯だって。そして大喜びした明智先生が張り切ってて阿鼻叫喚の地獄と化してるって」 「ああ、うん、よく分かった」 どんなことになっているか容易に想像出来た。 たとえ満員でなくても大切な恋人を連れて行きたくない状況だ。 保健医の餌食になった生徒の悲鳴が聞こえてくるような気さえした。 あまり嬉しくない幻聴である。 |