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今年のバレンタインは月曜日なので、その前日まで三連休となる。
天音は半兵衛に誘われて、木曜日の午後からバレンタインまで彼の家にお泊まりすることになった。

わざわざ自宅まで挨拶にきた半兵衛に、天音の母は反対するどころか、どうぞどうぞと喜んで娘を差し出した。
お茶を淹れる際にこっそり娘をキッチンに引っ張っていって「絶対に竹中さんを逃がしちゃダメよ!」と釘まで刺す始末だ。

10歳近く年上の男性との交際となれば渋い顔をしてもおかしくないはずなのだが、相手が絶世の美貌と明晰な頭脳の持ち主のエリート官僚となると話は別らしい。
半兵衛は「良いお母さんだね」と誉めていたけれど、天音としては素直に喜べないものがあった。


「さすがに何処もバレンタイン一色だね」

ショッピングモールを歩きながら半兵衛が言った。
チョコレートの特設コーナーに始まり、個人店までもがバレンタイン関連商品を並べているのを見ての発言だ。

天音もまったく同感だったため、「そうですね」と頷いた。

せっかくの連休なのに首都圏は雪になるということで、まずは木曜日の内に買い出しを済ませてしまうことにしたのである。
お買い物デートは久しぶりだ。

買う物は食料品が主だが、ついでだからゆっくり見てみようということになり、食品売り場は一番最後に寄る事にした。

吹き抜けになっている明るい中央通路の両側には、お洒落な雑貨や衣料品店が並んでいる。
赤いバレンタインの垂れ幕やポスターがあちこちに貼られているが、もう後数日もすればそれらは撤去され、今度はホワイトデーの宣伝が始まるに違いない。

その時にもまたこうして半兵衛と一緒に来られるだろうか、と考えながら、そっと彼の手に触れると、ごく自然にそのまま手を繋がれた。
美しい顔が優しく微笑んで見下ろしてくる。

「どうしたんだい、今日は甘えん坊だね」

「だって久しぶりだから…」

「いいよ。好きなだけ甘えるといい」

彼の包容力を母親のようだと評したのは誰だっただろう。
確かに無私無欲で秀吉に献身的に尽くし、その下に集まってくる者達を指導したり見守ったりして面倒を見る彼の姿は母性を感じさせるものがあったが、天音にとっては優しく頼りになる年上の男の人だった。



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