母方の実家の裏山にある小さな神社。 我が家の延長のようなこの場所には、時間が夜という事もあって私以外の人間はいない。 少し頭を冷やしたくて、ここへ足を運んだ。 母方の実家はそれなりに歴史も財産もある旧家であったため、両親が都心へ家を構える事になった際にはかなり揉めたようだ。 祖父は私を総領娘として扱う事に決めたらしく、生まれた時から、総領娘に相応しい教養を身につけるべくお稽古事をしろだのとあれこれ煩く言ってくる。 だから普段はこの実家には寄り付かないのだが、今日はどうしても家から離れたい理由があって一泊の予定で訪れていた。 ホワイトデーを一緒に過ごすために母は父の出張先に泊まりがけで遊びに行っている。 帰りは明後日の昼になる予定だ。 夜の神社を不気味だと感じる人もいるだろうが、昔からこの怖さと神聖さが入り混ざった静謐な雰囲気が好きだった。 自分の心と向き合って気持ちを整理するには丁度いい。 湿った夜の空気を深く吸い込み、目を閉じて半兵衛の姿を思い浮かべる。 半兵衛は美しかった。 だけど私は違う。 彼みたいに綺麗な生き物じゃない。 自分の良い所を思い出そうとすればするほど自分の醜さがあらわになるようで、ついにはオーバーヒートしてしまった。 同性の友人達からは、秀吉くんが憎くならないのかとよく聞かれる。 羨ましいと思うことはあっても不思議と彼に負の感情を抱いたことはなかった。 私の中にある闇は、全て私自身へと向かっている。 だから時々それと向かい合う時間が必要だった。 半兵衛は私がいなくても生きていけるけど、私は半兵衛がいないと生きていけない。 私が一人で勝手に必死になって追いかけているだけで、もしそうするのをやめてしまったとしても、彼が打撃を受けるわけじゃない。 悲しむかもしれない。 残念がるかもしれない。 でも、なりふり構わず追いかけてくるなんて事は絶対にないと断言出来る。 半兵衛は常に未来を見つめているから。 秀吉くんが創る未来と、秀吉くんの力になる事こそが半兵衛の全てだから。 |