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「ばんぺいゆ」が
「はんべいゆ」に見えた自分はもうダメかもしれない。

天音は先ほど宅配便で届いたばかりの箱の中身を見つめながらそんなことを思った。
仕事で手が離せない半兵衛に代わって中身を確認してくれと頼まれたのだ。

ばんぺいゆは、漢字で書くと「晩白柚」。
直径25センチはあろうかという大きな実が二玉、見るからに高級そうな箱の中に並んで収められていた。
実際高級品だ。
一つ手に取って鼻先に近付けてみれば、柑橘系特有の甘酸っぱい良い香りがした。

「半兵衛さん、今日のデザートこれにしますか?」

「天音が食べたいなら構わないよ」

パソコンから目を離さないまま半兵衛が答える。
キーボードを叩き、マウスを操るその姿は美しくカッコいい。

やがて彼は、ふうと息をついて手を止めた。
どうやら片付いたようだ。

「お疲れ様です」

「有難う。これでようやく君とゆっくり出来るよ」

高級な食べ物と、それに相応しい住居と美しい住人。
半兵衛が暮らすこのマンションは、都会の一等地にある高級マンションだった。
別に高級嗜好があるわけではなく、ただ単に利便性を追求した結果ここが最適の場所だったというだけのことだ。
半兵衛からはそう聞いている。
だがしかし、そうするための資金があるのだから、やはりセレブであることに変わりはない。

「やっぱり犬かな」

「何の話だい?」

「高級マンションに相応しいペットはなにかなと思って。大型犬とか飼えそうです」

「犬は嫌いじゃないよ」

「グレートピレニーズとか好きそうですよね。白くて大きい犬」

「ああ、いいね」

「やっぱり大きいのが好きなんですね、半兵衛さん」

「何か卑猥に聞こえるんだが」

「半兵衛さんがいやらしいからそう聞こえるんですよ」

「それはいやらしいことをしても良いというお許しかな?」

ふふ、と含み笑った半兵衛が眼鏡を外して立ち上がる。
一気に艶めいた空気になった事に慌てた天音は、フルーツを盾にすることにした。

「晩白柚!食べましょう晩白柚!」

「僕は別のものが食べたい」

「そ…それは後でということで」

「いいよ。そうしよう」

あっさり引いた半兵衛は、ソファに腰を下ろした。

「今日は二つもデザートが食べられるなんて豪勢だね。しかも、その一つは僕の大好物だ」

「もう…半兵衛さんのばか……」


晩白柚はたいへん美味しかった。
天音も美味しく頂かれた。


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