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半兵衛の食生活はひどいものだ。
放っておくと、多忙だからといって、ゼリータイプやブロックタイプの栄養調整食品で済ませてしまうことが多い。
成人男性としてその食生活はどうなんだと言いたいが、食欲に限らず元々欲が薄い人だからと思い直した。

彼は、全ては秀吉のためにという行動原理に基づいて生きている。
彼の中では己の身体のことなど二の次どころか恐ろしく後回しになっているに違いない。

そこで天音は必殺技を編み出した。

「秀吉さんの右腕として自分の体調管理くらい出来ないとダメですよ」

これにはさすがの半兵衛もぐうの音も出なかった。
以来、天音が作る食事を大人しくたいらげている。
最近では一度に食べる量も大分多くなってきた。
やっと胃袋が追いついてきた感じだ。

今日もそうして半兵衛に食事をとらせた後、キッチンで洗い物をしていた。
天音が洗い、半兵衛が清潔な布巾で拭き、しまっていくから早い。
愛の共同作業だ。

「すっかり通い妻が板についたね」

「半兵衛さんのせいですよ」

洗い物を終え、エプロンを外してリビングに戻ると、ボリュームを絞ったショパンが流れていた。
ショパンのバラード第1番ト短調作品23。

「手のかかる恋人がいると、女は甲斐甲斐しくなるんです」

「僕はそんなに手のかかる男かな?」

「しっかりしているように見えて危なっかしいところがあります」

「頼れる男を目指しているつもりなんだけどね」

「頼りになりますよ」

実際、半兵衛は頼りになる男だった。
エスコートは完璧だし、仕事も出来る。
知らないことはないんじゃないかと思えるほど博学で、頭の回転も早い。
その代わり、生活感というものがが全く感じられない。
いわゆる天才肌の人間だと言える。

「半兵衛さんから見た私はどうですか」

「君はとても魅力的で可愛い子だよ」

「……」

「おや、僕の言葉を疑うのかい?」

「いえ…あまり素直に褒められたのでびっくりしました」

「君は良い子だよ」

半兵衛は笑って天音を抱き寄せた。
身長差があるので見上げると、唇が降りてくる。

「特に、僕の腕の中で鳴いて踊っている時はね」


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