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今日は半兵衛さんと七夕祭に来ている。
人混みには正直閉口したが、せっかくの七夕なので半兵衛さんと一緒に過ごせるのは嬉しい。
私は昨日買って貰った浴衣を着ていて、半兵衛さんも白い浴衣姿。
白い浴衣は着こなすのが難しいというが、よく似合っていて、見目麗しいという言葉がぴったりすぎる。

「ほら、お目当ての屋台だよ、天音」

「半兵衛さん、いくらなんでも食べ物目当てで来てませんからね?」

「本当かい?その割にはさっきから目線が食べ物の屋台ばかりをとらえているようだけど」

「ごめんなさい。焼きそば食べたいです」

「素直なのは良いことだよ」

半兵衛さんに焼きそばとわたあめを買って貰って少し歩くと、本日の本当のメイン、短冊が吊るされた笹が見えてきた。
笹の下には受付カウンターがあり、短冊が置いてある。

「この紙に願い事を書くんだね」

「半兵衛さんは何をお願いするんですか?」

「願い事はひとに話したら効力がなくなるというだろう。秘密だよ」

そう言って半兵衛さんが美しく微笑むので、私はそれ以上追求出来なかった。
なんて書いたんだろう。気になるな。

「そういう君は何をお願いするのかな?」

「効力がなくなっちゃうから秘密です」

「フフ、仕返しか。やられたな」

半兵衛さんには絶対に言えない。

《半兵衛さんがいつまでも健康で長生き出来ますように》

私の願い事は私のエゴだ。
秀吉さんのためにその命を燃やし尽くすのもいとわない彼を、私はなるべく長く生かしてほしいと願っている。
私自身のために。

半兵衛さんが死ぬ時には私も一緒に死ぬつもりでいることも秘密だ。
言えば、優しいこの人は自分から私を遠ざけようとするはずだから。

「随分熱心に見つめていたね」

願い事が書かれた短冊が笹に吊るされるのを見守っていたら、半兵衛さんに手を握られた。
少し体温の低い、大きな手。
その手を握り返しながら、私は半兵衛さんの美しい顔を見上げた。

「願い事が叶うようお願いしてました」

「僕で叶えてあげられることなら何でもしてあげよう」

「えっと」

「やはり僕に関する願い事なんだね」

「…あっ」

「君はわかりやすい」

くすくす笑う半兵衛さんを悔しくて睨むが、まったく効いていない。

「優しい子だね、君は」


神様

何もかも見透したように微笑むこの人を、どうか私から奪わないで下さい。
なるべく長く一緒に生きられるようにして下さい。

神様、お願いします


半兵衛さんの手を強く握り返しながらそう願わずにはいられなかった。


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