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暑い。とにかく暑い。
毎日こう暑くては、どこにも出掛ける気がおきない。
冷房の効いた涼しい部屋で一日中ゴロゴロしていたい。

「僕と出掛けるのは嫌かい?」

「嫌じゃないです!」

神様、あなたは何故こんなにも半兵衛さんを美しくお造りになったのですか。
仕事用のスーツではなく私服で迎えに来てくれた半兵衛さんに私は目をハートにしながらほいほいついて行った。

「まずは買い物だね」

半兵衛さんと私を乗せた車は、銀座の有名店の駐車場へ滑り込んだ。
しまった。こんな高級な場所に来るならちゃんとお洒落な服を着てくるんだった。

内心後悔しまくっている私を連れて、半兵衛さんは店の地下へと足を進めた。
言わずもがな、VIPルームである。

「そうだな…白か紫のものを一通り持って来てくれたまえ」

「かしこまりました」

何がなんだかわからないまま、店員さんが運んで来たラックに吊るされた水着を渡され、試着室へと追い込まれた。
これがまた広い。
ソファまである。

水着を着てそっとドアを開けると、半兵衛さんが上から下まで目線を走らせた。

「なかなかだけど、やはり白がいいかな。天音、今度はこれを着てごらん」

「はい」

半兵衛さんの言葉に否やはない。
私は渡された水着を手に再びドアを閉めた。

白い水着は半兵衛さんを連想させて何だか恥ずかしい。
だけど、勇気を出して着替えると、私はまた試着室のドアをそっと開けた。

「うん、いいね。よく似合っている」

どうやらお眼鏡にかなったようだ。
ほっとする私の前に、また別のラックが運ばれてきた。
今度は浴衣らしい。

「そうだな…これとこれを着てみてくれないか」

「わかりました」

何度でも言うが、半兵衛さんの言葉に否やはない。

私は手渡された浴衣を手に、またもや試着室に入った。
そして、着替えて、ドアを開ける。

「綺麗だね。僕の見立て通りだ」

「ありがとうございます」

「これで、プールと花火大会に行ける」

どうやら夏らしいデートのための下準備だったようだ。

カードでスマートにお会計を済ませた半兵衛さんと私は、車へと戻った。

運転手さんにこの辺りでも有名な外資系ホテルの名前を告げると、半兵衛さんは後部座席に身を預けて息をついた。

「僕はね、君の希望は何でも叶えてあげたいと思っているんだ」

「半兵衛さん?」

「だから、今日は一日中涼しい部屋でゴロゴロして過ごそう。僕と一緒に」

そのためのホテルか、と納得する。
食事の支度などの心配もなく、至れり尽くせりでゴロゴロ出来るなんて夢のようだ。

「嫌かい?」

「いえ、喜んでっ」

私の返事が某居酒屋の店員のようになってしまったのも無理はないとわかってほしい。

ホテルのスウィートルームのピクチャーウィンドウから眺める月はいつもより美しく、近くに感じた。


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