「どうしたの?大人しいわね」 「だって…緊張しちゃって…」 天音がそう答えると大人達は声を揃えて笑った。失礼な。 「あら、でも二人とも引っ越した後もずっと連絡はとってたんでしょう?」 「そう、メールや電話はしていたけどね。会うのは6年ぶりだよ」 天音の代わりに半兵衛がさらりと答えた。 その通り。 全く疎遠だったわけではない。 離れていた間もずっと連絡はとっていたのだ。 これがもしも同性の幼馴染みだったら、きっと互いに泊まりがけで遊びに行ったりして、もっと濃い付き合いが続いていたのだろうと思う。 しかし、小さい頃どれほど仲良しだったとしても、半兵衛は異性で、男の子なのだ。 彼には男の子同士の付き合いというものがあるし、天音にもまた女の子の友人との付き合いがある。 事実、中学生になると半兵衛には豊臣秀吉という親友が出来た。 その秀吉を介して彼の友人である前田慶次とも知り合い、三人で仲良くやっているらしい様子がメールや電話の内容から天音にも伝わってきていた。 だから、彼の今現在の世界に干渉しすぎてはいけないと、あえて心理的な距離を開けていた部分もある。 ただ、そうして微妙な距離を置きつつも、決して二人の絆が切れることはなかった。 たぶん遠距離になった男女の幼馴染みとしては珍しいケースなのかもしれない。 「そういえば半兵衛君は彼女とかはいないの?」 母が無邪気な口調で半兵衛に尋ねた瞬間、天音は内心ドキッとした。 離れている間、あえて一度も触れずにいた話題なのに。 「いえ、いません」 「あら、そうなの? すごくモテそうなのに」 そんなことはないですよ、と苦笑する半兵衛に納得いかなそうだったが、母はすぐににっこりして天音のほうを向いた。 嫌な予感がする。 「半兵衛君、彼女いないって! 良かったわね!」 「お 母 さ ん !」 大人達はまた揃って楽しそうに笑った。 そして、また別の話題で盛り上がり始めた。 半兵衛は涼しい顔でグラスを傾けている。 天音は子供をネタにして楽しむ大人にはなるまいと密かに誓った。 |