観月と七海はそれぞれ飲み物と料理を頼んだ。

「そろそろ汗はひいてきましたか」

「はい。涼しくなってきました」

制汗スプレーかシートで拭いてしまいたいところだが、観月の前でそんな真似は出来ない。
そういえば、今日も暑いのに観月はあまり汗をかいていないようだ。

(観月さん、何だかいい匂いがするし…)

そう考えてちょっと赤くなった。
七海の同級生の男子達を思い浮かべてみれば、観月との違いは一目瞭然だ。
外見も中身も全然違う。
ほんの少し前までランドセルを背負っていた子供なのだから、当然と言えば当然だが。

勿論、七海自身も自分が子供だと自覚している。
もしかすると、同じ年の他の女の子達よりもずっと幼いかもしれない。
リョーマの口癖で言うなら、「まだまだだね」といったところだ。
だから、たった二歳のはずの年齢差がとても大きなものに感じられた。

「昨日、来年行く修学旅行の行き先希望アンケートをやったんです」

「ああ、ボクもやりましたね、そういえば。この時期でしたか」

「はい。行き先候補がみんな外国だったからびっくりしちゃいました」

候補地一覧にヨーロッパの各国の国名が並んでいたのだから驚きだ。
さすが新設校といったところか。

「観月さんの時はデンマークだったんですよね」

「ええ、アンデルセンの話をしましたね」

「はい、ちゃんと覚えてます。だから、もし良かったら、今度行く事になるかもしれない国についても教えて貰えませんか?」

「んふっ、構いませんよ」

観月は候補地に上がっている各国についての歴史や見所について、それは詳しく説明してくれた。
長々としたそれに、別のテーブルから密かに見守っている赤澤達がうんざりするほどに。

「…少し長く話し過ぎましたね」

「そうですか?詳しく教えて貰えて良かったです。凄く参考になりました」

「そうですか…いえ、キミが嫌でなければいいんです」

「観月さん?」

「ボクは、神経質で潔癖症で小言も多い。細かい男だと呆れているでしょう?」

「どうしてですか?」

七海は不思議そうに首を傾げてみせた。

「呆れるなんて、ぜんっぜんそんなことないですよ。私のために色々考えてくれてるんだなぁって、すごく嬉しいです」

「本当に?」

「はい!私、ちょっとうっかりなところがあるから、観月さんみたいに細かい所まで気がつくしっかりした人が合ってるんだと思います」

にこにこしながら肯定する彼女に、嘘をついたり気を遣っている様子はない。
本心からそう思っているのだということがわかり、思わず観月の表情も緩んだ。

「そうですね…ボクにはキミみたいな女性が合っているようです。きっとボク達はお似合いの二人なんでしょう」

「はい!」



「…なぁ、あいつら大丈夫か?」

「ダメだね」

「ダメだーね」

カップルを陰から見守る者達は激しい胸焼けに襲われて苦しんでいたが、お互いの気持ちを再確認しあったカップルは幸せそうだった。



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