今年はじわじわとではなく一気に暑くなった気がする。
梅雨らしきものがあったような気がするけど、あっという間に終わってしまった。
それからはもう毎日暑い日が続いている。

「この暑いのによくやるねぇ」

窓の外を眺めながら友子が言った。
エアコンがあるからという理由で、彼女にサロンに引っ張って来られた私は、テーブルの一つに陣取って宿題を片付けている最中だ。
彼女の視線の先にはテニスコートがある。

「今日は立海と練習試合なんだって」

私が言うと、友子はますます信じられんという顔をした。

「あいつらの体力どうなってんの?」

それは私も知りたい。
男子テニス部の皆とは、ただ単に文系と体育会系の違いというだけではない、遥かな隔たりがある気がする。
私から見れば、若くんも含めて皆超人だ。
なんというか次元が違う。

「今外に出たら死ぬ」と真顔で言った友人に苦笑を漏らしたとき、スカートに猫の足が乗った。
タマだ。
いつの間に来たのか、タマが足に手を掛けてにゃーにゃー泣いている。
その瞬間、何か予感に似た感覚がして、私は立ち上がった。

「ちょっと行って来る!」

「え、ちょ、何処に!?」

「テニスコート!」

叫んで走り出す。
私を追い抜いてタマが走っていく。
サロンを出ればテニスコートはすぐだ。
部室棟を除けば一番近い建物がこのサロンなのだ。

テニスコートでは丁度ダブルスの試合が終わったところだったらしく、立海の丸井くんと桑原くんのペアと、向日くんと忍足くんのペアが握手をしているのが見えた。
ベンチ脇にいた若くんが、走ってくる私を見て怪訝そうな顔をしたが、すぐに何かあったのかとその表情が引き締まったのが見えた。
私は真っ直ぐ跡部くんを目指して走っていく。

「跡部くん!」

跡部くんは立海の幸村くんと話していたが、私が呼ぶと、すぐに「何があった」と眉をひそめて聞いてきた。

「ゲリラ豪雨が来るよ!早く建物の中に入って!」

立海の切原くんが「ハァ?」と馬鹿にしたような声を出した。
無理もない。
空は青く、晴れ渡っている。
跡部くんも幸村くんも微妙な反応だったが、「タマも雨が降るって」と続けると、跡部くんはすぐに頭を切り替えたようだ。
パチンと指を鳴らし、堂々とした声で命じる。

「全員、荷物を持って建物に入れ!」

「ここからならサロンが一番近いよ」

私が言うと、跡部くんは私の頭に片手を置いて、「こいつについて行け」と立海の人達に告げた。
他の皆は、と見れば、宍戸くんと鳳くんは早くも荷物をまとめてダッシュに入る準備を終えていた。
たぶんその足元にはタマがいる。

「こっちです。ついて来て下さい」

私が後ろを振り返りながら言うと、幸村くんがラケットバッグを肩にかけて「行こう」と他の人達に声をかけてくれた。

早く、早く、と思いながら急ぎ足で歩いていると、急に辺りが暗くなった。
それは本当に突然だったので、立海の人達は驚いた顔で空を見上げている。
それとともに、ゴロゴロゴロゴロ…と不穏な音が轟き始めた。

「早く!」

私が幸村くんの手を引いてサロンの中に入れるのと、ドン!と凄まじい音とともにバケツをひっくり返したような雨が降り始めたのは同時だった。



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